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聖戦の礎 ―復活編― (完結)
創成4





「インダストリアのヘイムダル基地に居た。基地と街を繋ぐ道に大きな河川があって、その橋の上でテロの襲撃に遭って、河に落ちた」
 そこまでは覚えている。
 なのに、どうして自分は今、こんな温かい南国で、呑気に月など眺めているのだろうと思う。
「地下水脈に呑み込まれたな」
 リウシンは事情を察した。
「運が凡庸だと、そのまま冬の海に流されただろう。しかし、おまえさんは強運らしい」
 リウシンはニヤリと笑った。
「ニルヴァーナには生きた水脈がある。時代によって場所を変えて、気まぐれに地表に現れては再生の泉として機能する。おまえさんの証言が正しければ、今回のこの泉が機能不全なのも説明がつく。河川と合流しているために、水脈の濃度が安定しないって事だ。おまえさん自身は地下水脈の奥深い中で再構築されたとすれば納得がいく」
 リウシンは疑問を晴らした事に満足していた。
「あんた一体、何年泉を管理してきたんだ?」
 杉崎は驚いた。再生の泉の情報を、ここまで把握するに至るまで、一体どれだけの歳月を要するか。途方もなく永い間、泉を追い続けて管理して来たとしか思えない。
 リウシンは鼻先で笑って、口を噤んだ。
 答えは返らない。
 杉崎は質問を変えた。
「――俺は何なんだ?」
 杉崎の突然の質問に、リウシンはすみれ色の瞳を持つ大きな目を更に丸くした。
 いきなり何を言い出すのかと思う。
「何が?」
「レプリカであった俺の身体は分解された。なら、この身体は何だ?」
 元々の特徴とは異なる存在。
 それを知って、杉崎は疑問を発展させた。
 遺伝情報が違う個体でありながら、記憶は同一だった聖の再生。今、自身がそれに生まれ変わって、姿形までは元と同一個体なはずの身体に、レプリカとの違いを実感する。
「オリジンだ」
 創始。原点の存在。
 リウシンは自らをそう表現した。
「惑星が生み出した、このニルヴァーナ原産の知的生命体だ。今現在やっとおまえさんが生まれて、たった四人目だけどな」
 再生が稀にしか起こらない現実を知る。
 HEAVENでも、随分と研究を重ねているはずだ。
 それなのに、聖はずっとたったひとりの存在だった。
 次郎の再生は、不可能なのかと思わせられる。
「ファーストはもうかなり昔の人物で、長く生きたようだったが五百年前の戦争で死んだと聞かされた。次に生まれたのが女だった」
 リウシンは、淡々と杉崎に自分たちの歴史を語る。
「――次におれ、そしておまえさんの四人だ。事例がそれしかないので、再構築のメカニズムは未知の世界だ」
「女は?」
 杉崎の質問に、リウシンの表情があえかに曇った。
「妊娠中に急変して死んだよ。胎児も致死性の異常があって死亡した。もう二百年以上も前の事だ」
「妊娠?」
 杉崎は愕然とした。
 妊娠は有り得ないと、HEAVENに来た時、最初に聞いた。
 それがレプリカの限界であり、生態系のバランスを保つための不文律だと信じていた。
 この仲間の言う事が、にわかには信じ難い。
「少なくともおれは、同族の女を孕ませられる」
 この、奇跡の真に迫るような発言は何なのだろう。
 杉崎は混乱した。
 そして、同時に自身を落ち着かせる。
 リウシンの伝える出来事が事実なら、この男は妻と子を一度に失った事になる。その慟哭を抱えながら、たったひとりで二百年の時を生きてきたと言うのだろうか。
 その果てしない孤独を思って、杉崎は固唾を呑んだ。




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