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聖戦の礎 ―復活編― (完結)
Two dogs12





 柴崎は驚いて中を確認した。
 その寝室に並ぶ二台のベッドのひとつには、痩せた裸の女が三人、身を寄せ合って座り込んでいる。
「なんだ。俺のお仲間じゃねーか」
 立川は嘲笑を向けた。
「――ポンプ散らかしやがって。……ヤクヅケで干からびた身体抱いて、何が楽しいんだか」
 床に散乱する使用済みの注射用シリンジを見て、蔑む視線を向けた。
 そして、刀身にこびりついた血液をシーツで拭って鞘に収める。
 女を斬るつもりは無かった。
「胸も尻も、俺の方がありそうだな」
 勝ち誇ったように笑いながら寝室を出た立川は、ソファーの上にある鞄を取って、逆さにして中身を床に払い落とした。そして、テーブルの上にあった白い塊を、その鞄に詰め込む。
「――行くぞ」
 クラブケースを拾って、刀を入れて背負う。
 何事もなかったような表情の顔には、返り血が筋状にこびりついていた。
 死体をまたいでドアに向かい、途中、靴の裏にこびりついた血痕を、斃れている男の背中で拭ってから客室を出た。
 柴崎は愕然とした。
 この、なにものも恐れない他人への冒涜ぶりは、聖をも越えるかもしれない。
 今の立川に比べれば、聖ははるかにお行儀がいい。
 もしかしたら自分は、とんでもない誤解をしていたのではないだろうか、と気付いた。
 恐る恐る立川の後を追いて行くと、階段を降りて数階下の非常階段へ続く扉の前に出た。
 立川が、腰のベルトに挟んでいた銃で施錠された鍵を破壊して扉を蹴破ると、高層階の風が容赦なく建物の中に流れ込んできた。
 立川は迷わず非常階段を降りてゆく。柴崎は、後を追って腐食しかかった鉄製のステップを足早に駆け下りた。
 外に出た途端に、サイレンの音が響いていた事に気付いた。
「何でしょう? 騒がしい……」
 柴崎が呟くと、立川は呆れた。
「おまえもほとほと天然な野郎だな」
 呆れて指摘してから、隣接しているビルの屋上に向かって、非常階段のフェンスを蹴って跳躍した。
 路地を挟むそこは、二台の車が通れる程の距離がある。
 驚くだけの柴崎の目の前で、立川は苦もなくビルの屋上に着地した。
「来い。置いて行くぞ」
 立川は簡単に言ってくれる。
 柴崎は驚き続けていた。
 自分に備わった、野生動物のような身体能力に初めて気付いた。それでも、立川のような動きが本当に可能なのか疑わしい。
 しかし、立川は早くも見捨てたように背中を向けて先へ進み始める。
 柴崎は迷いながら、それでも意を決して、渾身の力を込めてフェンスを蹴った。
 思いの外勢いがつく。
 柴崎の身体は車道の遥か上を横切って、先へ進む立川のすぐ後ろに、着地に失敗して転倒した。
「――ダッセェ」
 振り向いて見下ろす冷たい視線が、痛みに悶絶する柴崎をさらに悶絶させた。
 虐げるような冷徹な表情が、あまりにも美しくて混乱する。
 つい先程まで殺し合いをしていた緊張の名残りと、逃走しなければならない焦燥感にまで煽られて、柴崎は自分が興奮している事に気付いた。
 そんな柴崎の葛藤を、知ろうが知るまいが全く関心が無い様子で、立川はふたたびビルの入口を目指した。
 柴崎も立ち上がって後を追う。
 飲食店や風俗店がひしめく雑居ビルを降りて、裏通りへの出入り口から外へ出た。客待ちのタクシーに乗り込んで、行き先を告げる。
 タクシーは、そこから何事も無かったように、ふたりを連れ去った。




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あきゅろす。
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