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聖戦の礎 ―ジェイル編― (完結)
挑戦9





「おい、掲示板見たか?」
「見た。あれって、基地公認のゲームだろ?」
「俺ら出ねえ? 優勝者の権利ってのが、気に入った」
「一単位三人のチームエントリーって……一車両一チームってコトか?」
「だからメンバーを集めやすいし、エントリーもしやすいんだろ」
「おれら海兵隊が最強だって事を思い知らせてやろうぜ」
 ラウンジスペースにたむろしているフェニックス護衛艦ヴァルドルの精鋭たちが、頭を付き合わせて決意を固めていた。
 基地のあちらこちらで、同様にチームエントリーの話題が聞かれる。
 急に基地内が活気づいて、噂のサバイバルゲームの話題で持ちきりとなった。
 その情報は勿論フェニックスの指揮官たち、葵が名付けたいわゆる通称『バカグループ』の耳にも入っていた。
「これはあのオッサンから俺たちへの挑戦状だと見たね」
 ドックに収容されているフェニックスの艦長室で、冷静に分析する沢口がふたりに伝えた。
 各セクションが調整中である中、休憩を取っていた沢口と橘のもとに、情報を知った野村がやって来ていた。
「挑戦を受けたとして、万が一にもオッサンが優勝してみろ。俺らの貞操狙ってくるぞ」
 多分に身に覚えがある橘は、心中穏やかではない。
「参加者だけの限定とは記されてないから、餌食に参加不参加は関係ないんじゃないの?」
 野村が深読みする。
 ならば、コバッチの優勝は何が何でも阻止しなければならない。
「どうするよ。俺、戦車転がした事なんてないよ」
 ありとあらゆる車種と船種を操縦出来る橘でも、戦車だけは経験が無かった。
 専門はやはり空だと感じる。
「まあ、シミュレーターやればすぐに慣れるって。シューターは俺がいるし。野村、おまえが操縦士な」
「えっっ!? おれ?」
 経験が無いのは野村も同様だ。
 しかし、役割分担を考えると、それが妥当なのかと諦めの境地に入る。
「それより、工場内バトルなんて、海兵隊連中には敵わないんじゃないか?」
 野村はさらに現実的な懸念を口にする。
 フェニックス海兵隊の獰猛さを知っている彼には、歩兵として彼らに対抗する自信は無かった。
「おまえ負けん気が弱っっ!! いいのか隊長がそんなんで。世界征服はどうしたよ?」
 沢口の指摘に、野村は苦しい言い訳をする。
「あれはおまえ、ガーディアンあってこそでしょう」
「いや、そうでもないぞ。装備は自由だって言ってたから、フル装備で当たればいいじゃん」
 橘が野村を諭す。
 しかし、野村の表情はさえない。
 そして、他人の面倒事に巻き込まれて、嫌々付き合っているような態度が見え見えだ。
「あんな重たいのなんて御免だよ」
 通信機とGPSを詰め込んだバックパックに、ディスプレイ付きのヘルメット。それでもずっと軽量化が進み、銃器類を除くと防寒具込みで装備は5キロに満たない。
「んなコト言ってなあ、遮那王との演習の時だって貞操の危機にあったんだろう? 今回のこれだって、おまえ狙われるぞ。しかも王様相手じゃ拒否できないときた。どーするよ?」
 野村は橘から突きつけられた現実にぞっとした。
「まあ、俺らは歩兵訓練も受けているから守ってやるよ。おまえは誰よりも早く工場に俺らを運んでくれりゃいい」
 沢口の懐柔が野村を困らせる。
 加えて、橘が更に嫌な現実を伝えて来た。
「頼むよ。実のところ俺たちだって身の危険を感じているんだ。あのオッサンだけは野放しに出来ない。なんとか食い止めなければ、俺ら三人ともクマの餌食よ? いいの?」
 野村は驚いて橘を見た。
「いつから俺まで餌食に数えられてんだよ」
「おまえクマの前で、参入宣言したじゃん」
 そう言われれば確かにそうだった。
 バカグループが狙いなら、既に自分も数の内だ。
 野村は蒼白になった。
 あんな、指毛までとぐろを捲いているような毛深いクマにセクハラされるなど考えたくもない。
「クマに喰い散らかされるのは嫌だ」
「だろう?」
「だけど、あいつらは?」
「誰?」
「ジョイスとウォルターだよ。おまえらの番犬じゃなかったのか?」
 野村の縋るような視線を、沢口はふふんとハナで笑って返した。
「いやあ、これが意外でさあ。オッサンにはメチャ弱かったんだよ」
「テディベアに喰われて悪夢を見たらしい」
 喰い散らかされた犠牲者が、既に存在していた事を知り、野村は戦慄した。次が、自分たちの番なのかと恐ろしくなる。
「逃れる方法は?」
「クマを狩る事だ」
 迷わず応える沢口の決意に、野村は何も返せなかった。
「――で、クマ撃ちには犬が必要だろう? あてはあるのか?」
 橘の確認に、沢口は事もなげに応えた。
「ジョイスが懲りもせず参入するさ。そうじゃなければ、アイツ自身、艦長(おれ)を守るっていう自分のスタンスを失う事になる。……それに」
 沢口は思い出してニヤリと笑った。
「アイツにだって、阻止したい理由がちゃんとある。男心は複雑だよ」
 コバッチとジョイスの事情を知っている沢口にとって、このレースは面白いものになりそうな予感があった。




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あきゅろす。
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