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聖戦の礎 ―ジェイル編― (完結)
挑戦7





「――オッサン、虐げられてんなあ」
 橘が同情して、コバッチに哀れみの視線を向けた。
 コバッチは虚しい微笑みを返した。
「日頃の行いのせいだ」
 沢口は可笑しそうにクスクス笑う。
「さて、仕事に戻るかな」
 食事を終えて満足した沢口が、大きく伸びをして自身に言い聞かせるように呟いた。
 立ち上がる沢口に従うように、橘もまた席を立つ。
 去り際に、沢口は操縦士組に向かって言い渡した。
「葵。ちゃんとシミュレーションやっておくんだぞ。おまえらも責任持って相手してやれ。あと10日でSクラスまでアップしろ。いいな」
 沢口の容赦ない命令に、葵はうんざりしたように表情を崩した。
「そんなカオするなよ。せっかく可愛い顔がだいなしだ」
 橘が苦笑して指摘する。
 そして、ふたりは何事もなかったように、トレイを持って去って行った。
 橘に『可愛い』と言われて、葵は舞い上がっていた。
 そんな葵に野村が水をさす。
「社交辞令だ。バカ」
 冷淡に言い放つ野村に、葵がさらに顔をしかめて不機嫌な感情をぶつける。
 武田はそんなふたりのやりとりに、わずかながらでも嫉妬心を感じた。
 なんだかんだと葵を構っている野村がいる。
 そんな関係を意識してしまった今は、ふたりの傍に居続ける事が少しだけ辛くなってきた。
 しかし、それよりも、艦内にいる野村の恋人とは一体誰の事なのかが気になる。
 野村の交友関係は秘密めいていて謎が多い。
 同期の人間ならそれなりに知っているであろう事も、彼ら全体が秘密めいていてよく理解できない。
 沢口、橘、早乙女、森。
 恐れ多い上官たちに、そんな事情を尋ねられるはずがない。
 しかも、葵が指摘していた二重らせん構造の源であろう彼らに、今更である。
 これに提督と参謀が加われば、ひとつの塩基配列が完成しそうだ。
 野村のお偉い恋人とは、一体誰の事なのだろう。
 武田は世情に疎く、人の感情の機微にも鈍いのが災いして、妙な孤独感に落ち込んでいた。
 基本的には自己中心なくせに、そんな心の機微にだけは繊細なセンサーを持つコバッチは、甘酸っぱくもどかしい恋心につい感情移入して、武田に慈愛の視線を注いでいたが、武田はそれすらも気付かなかった。
 そんなコバッチに、悪だくみがふつふつと湧き上がって来た。
 フェニックスのメンツが絶対に食い付いて来そうな妙案を思い付いてしまったコバッチは、早速基地の責任者であるシングのもとに掛け合いに向かった。



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