聖戦の礎 ―出征編― (完結)
再会9
「おまえはわたしの、たったひとりの愛する友だ」
脇腹を撫で上げられ、更に首筋に添って舌先でなぞられる。
弱い所を一度に愛撫され、ウィルは思わず甘い声を洩らした。
「愛している。ウィリアム」
微かに失笑して囁きを贈る。
懐かしい囁きに酔わされる。
ウィルは熱く息を吐いて目を閉じた。
ふたりは同じ名を持つ。
学生時代、そんな親近感から始まった関係は、在学中の生活を充実させはしたが、そこに存在した過ちはどう足掻いても消し去る事が出来ずに、罪悪感とともに今まで付きまとってきた。
「また、おまえを手に入れる事が出来て嬉しい」
ホフマンにとっては、欲しいものを手に入れた。たったそれだけの事であり、それが全てだった。
「もう、逃がさない。……ウィリアム」
最早逃れられない運命の悪戯と諦めるのか。それとも自ら望んで飛び込んだ事になるのか。
ウィルには解らなくなっていた。
手に入れると言いながら、その実、束縛された覚えは無い。ホフマンはいつも、何者にも追随せず、縛られず、自由だった。
ウィルは、自身の感情に縛られていたに過ぎない。
ただ、与えられる快感に身を委ねてしまえば、何も考えずに済む事だけは解っていた。幾度も求められ、その愛の極致に果てる事を重ねて、ウィルの思考は麻痺していった。
しかし、その関係に自信が持てず、溺れる事を恐れたウィルは、全てから逃げる様に卒業とともに英国に帰国した。
「やはり、わたしが逃げた事になるのか」
「そうだ。わたしから逃れて、防衛軍なぞに入隊するから、あんなつまらない死に方をする羽目になるんだ」
独り言のつもりが、しっかりと聞かれていた。
つまらない死に様だったろうかと、改めて考えてみる。
いつの間にか、ウィルの身体は解放されていた。
「しかし、わたしには多分『クロイツ』は性に合わない」
真面目に返すウィルに、ホフマンもまた真面目に応えた。
「わたしも誘わん」
ホフマンは腕枕をして、横にいるウィルを見つめた。
愛おしそうに、指先でその頬を撫でる。
ウィルは、くすぐったい感触に首をすくめて、思わず笑みを零した。
その笑顔に誘われて、ホフマンも微笑を見せる。
思わず和んだ一瞬、ふたりの隔たりが消えた。
ホフマンは何か言いたげに、ウィルを見つめながら肌を撫でる。
ウィルは視線で問い返した。
ホフマンはそれに応えた。
「──老けたな」
懐かしそうにしていながら、現実的な言葉で台無しにする。
ウィルは憮然とした。
「お互い様だ」
そう言い捨ててから、ウィルは大切な事を思い出した。
「あ。連絡を……」
ホフマンの身体の上を乗り越えて、携帯を捜そうとする。
その身体はまた拘束されて、ホフマンの身体の上に抱かれた。
「ダメだ」
強引に引き寄せられ、接吻で言葉を塞がれる。
後はもう、彼を止める術は無かった。
何度目かの誘惑に引きずられ、愉悦のなすがままに堕ちて行く。
与えられる快感に酔わされて、何もかも忘れてしまいそうになる。
それは強くウィルを捕らえたまま、放してはくれなかった。
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