聖戦の礎 ―出征編― (完結) 再会8 やがて、陽が落ちて、闇が辺りを支配した。 執務室の奥の仮眠室には、艦内の士官室のそれよりも、豪奢で広いベッドが設らえられている。 三連のアーチ窓を飾るレースのカーテン越しに、月明かりが差し込む。 冴え冴えと室内を照らす、その光の中でウィルは目覚めた。 ベッドの中で身じろぎをして、それを少しだけ後悔した。 痛みに支配されたような身体は少しも思う様にならない。 やっとの思いで背中に感じる温もりから離れて、サイドテーブルに無造作に放られたユニフォームに手を伸ばす。そして、内ポケットを探って、携帯を捜し当てた。 ふたたび力なくベッドに身体を沈めて履歴を確認していると、不意に背中から手が伸びてきて携帯を取り上げられた。 「返してくれ」 振り返ると、ホフマンが携帯のディスプレイをフリックしている。 寝乱れたままのプラチナブロンド。その長い前髪を煩そうにかき上げて苦笑する。 「着信が多いな。余程心配していると見える」 ウィルが携帯に手を伸ばすと、ホフマンはその電源を切って、ベッドサイドに放り投げた。 ウィルは、沈痛な表情でその行方を見つめた。 「ジェフリー・サンダース。聞いた名だな。何者だ」 ホフマンは、ウィルの身体をシーツの上に組み敷いて迫る。 「君には関係ない」 意外な返答に、ホフマンはひとつの可能性を予感した。 この間の頻回な着信から、護衛艦で同行してきた者だと窺える。 単なる部下だったなら、そのような物言いはしないだろう。 ホフマンは冷たい双眸を細めて、魔性の微笑みを向けた。 「こんな男が傍に居ながら、綺麗な身体で待っていてくれたか。……男冥利に尽きるとは、こう言う事を言うのだろうな」 その指摘に、ウィルは愕然とした。 「違う!ジェフは」 「何が違う。……好意を寄せられて。それを知っていながら気付かない素振りで焦らしていたのだろう?……酷なやり方だ」 薄笑いを向けて指摘してくる、その一言一言が勘に障る。 ウィルの表情が曇った。 「――怒るな。下らないただの嫉妬だ」 ホフマンは、ウィルを抱き寄せて唇を重ねた。 抉じ開けて忍び込み、舐ったその舌をやんわりと吸い上げて、ふたたびウィルの情欲を煽る。 唇がキスから開放されると、ウィルは喘ぎながらホフマンに懇願した。 「せめて、連絡を……」 「待たせておけ」 「待ってくれ。……少し」 密着するように迫ってくる身体を両手で押し止めながら、逃れる術を模索する。 「……休ませてくれないか」 「休んだばかりだろう」 そんな抵抗など意に介さず、喉元に接吻するホフマンを、ウィルは咎める様に押し返した。 「――ヴィル」 困惑気味の表情が逆効果を煽って、ホフマンを更に誘う。 「何故……わたしなのだ」 「理由が無ければ、愛してはいけないのか」 耳元を吸われて全身が総毛立つ。 ウィルは、足元が揺らぐような、得体の知れない感覚に襲われた。 [*前へ][次へ#] [戻る] |