聖戦の礎 ―出征編― (完結) 予知3 梵天王の船倉の奥から、二機のヘビイメタルがハンガーへ移送された。 整備管理官の手によって、即時出撃が可能な状態であったそれに、パイロットスーツに着替えた武蔵坊と陽本が搭乗した。 エレベーターによってフライトデッキにゆっくりと移動しながら、戦闘情報室からの最新情報を確認する。 武蔵坊は陽本に尋ねた。 「――調子はどうだ?」 「機体も自分も良好です。随分休ませて頂きましたから、元気ですよ」 顎を固定していた装具は外れ、今は肋骨だけをベルトで固定している。 「痛みは?」 「もう殆どありません。クスリが効いていますし、急性期は過ぎて腫れも引きましたから大丈夫です。ご心配をおかけしました」 どうやら、陽本は本当に復活したようだ。 武蔵坊は胸をなでおろす。 メディカルセンターへと半ば強制的に叩き込み、艦医松平夏樹の方針によって、更に強制的に安静を強いてきた。 十分なメンテナンスは、高い戦力を生み出す。 今まで休ませておいて正解だったと、武蔵坊は満足した。 カタパルトのシステムがオールグリーンを示す。 武蔵坊のウィザードが射出可能となった。 「OKだ。 武蔵坊の指示と共に、ウィザードの漆黒の機体が梵天王から射出され、グラディウスの迫る戦闘空間へと飛び立って行った。 続いて射出準備に入ったガーディアンは待機を余儀なくされた。 戦闘情報室は、グラディウスの接近を警戒している。 遮那王の射程距離内に入ったそれは、弾幕をくぐりぬけて着艦を試みている。 梵天王の周囲にも、フェニックス艦隊のパワードスーツ群が到着し、これ以上待てない状況だと陽本は判断した。 「管制室、ゲートを開けてくれ。ガーディアン発進する」 機体を固定していたカタパルトシステムから離れて、フライトデッキの射出口へと移動した。 指示によって開放されたゲートに機体を接近させる 探査システムによって敵の位置を確認しながら、陽本は梵天王に接近するパワードスーツ隊に向けて、ビームランチャーの照準を合わせた。 ビームを三度発射した後、システムに三機のエルフが撃墜されたとの報告が入った。 陽本は、それを確認して、梵天王から離脱した。 「すげ……。 ガーディアンを見送った管制官は、感嘆して口笛を鳴らした。 ガーディアンが発進した後、整備管理主任レイチェル・リンドバーグは数々の陽本の失態を思い出して笑っていた。 副長に就任してから、副長として、らしい仕事が出来ないままメディカルセンター送りになってしまった。 そのため、ジェイルでの功績が真実だったのかどうかも曖昧なままだったが。この出撃によって面目躍如といったところか……と、期待する。 艦内では可愛いだけの情けない鼻血男だったが、コックピットに納まった途端に戦場を制したパイロットの 「いいね。ああいうのに ヘッドセットをインカムに接続したまま呟く。 その言葉は、管制室に届いてしまった。 『そういう言葉は、他のパイロットには聞かせられませんよ、大尉』 独り言に返されて、レイチェルは意識を管制室へ向けた。 窓越しに手を振るオペレーターが笑いかける。 「内緒にしておいてくれ。彼らはあれで精一杯なんだ」 レイチェルは、ハンガーの隅にある管理ブースへと向かって行く。 『内緒の見返りに、僕もレイちゃんって呼んでいいですか?』 図々しい申し入れに、レイチェルのこめかみがピクリと歪んだ。 「――外に叩き出すぞ」 『済みません。もう言いません』 静かに深く怒りを伝えるレイチェルの声に、管制官はアプローチを泣く泣く断念した。 美しい整備管理主任と懇意にしたいと願う職員は大勢いる。 しかし、当人はそんな状況には全く関心が無く、仕事一筋の姿勢を崩さない。 そこがまたファンを増やすという悪循環が成立していた。 レイチェルは管理ブースの席について、そこに置いてあった飲みかけのラテの入ったカップを手に取り、ストローに口をつけた。 ちょっと隙を見せると、すぐに馴れ馴れしく寄ってくる。 レイチェルは、苦々しい表情でラテを飲みほして、カップをダストシュートに放り込んだ。 そして、気を取り直して、現在出撃中の機体から送られてくる戦闘情報を、コンピューター端末に呼び出した。 気になるのは、フレイアの機体だ。 トラブル発生後、梵天王でメンテナンスを受けることなくふたたび出撃した。 あの精神状態での出撃が、静香にとってどのような影響を及ぼすか。 レイチェルは、静香の心を案じていた。 [*前へ][次へ#] [戻る] |