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聖戦の礎 ―出征編―  (完結)
予知2






 遮那王艦内で騒ぎの中心になっている杉崎と立川は、ハンガーに向かって移動していた。
 多少の妨害はあるものの、それはふたりにとって障害の内には入らない。
 確実に脱出に向かっている。
 それを確認して、一条は不愉快だった。
「どいつもこいつも……。たったふたりやん。ブロックでけへんのかいな」
 指令席から情報を確認して、不機嫌に呟く。
CIWS(シーヴス)起動。艦体にビームシールド。フェニックスから新型機が接近している。多分手強いぞ」
 発令によって、遮那王は迎撃体制に入る。
 一条は高揚していた。
 哨戒艦艦隊は、一度は力を失ったが、それが強大な力を持つ一大艦隊へと生まれ変わった。
 統合本部を拠点とする主力艦隊に名を連ね、その筆頭となるべく真の実力が試される時が来た。
「フェニックスを討ち取って名を上げるぞ。HEAVENの制空権は、我々哨戒艦艦隊のものだ」
『――大きく出ましたね。提督』
 指令席のディスプレイに映る武蔵坊の姿が、一条の必勝宣言に苦笑する。
 内心はサムライとしての一条の在り方が嬉しかった。
「なんや弁慶」
『ヴァルキュレイ隊は、全機フェニックスに向かわせました』
 一条の指示に従っての動きが報告される。
「さよか。……で、どないしたん」
 そんな報告だけで横槍を入れてきた訳ではあるまい。
 そう思って一条は確認した。
『グラディウスが接近しています』
「フェニックス配属の新型や。新入りパイロットが本部から直接参加しよったん」
『あれも生体融合兵器です』
 武蔵坊の報告に一条はぽかんとした。
 パイロットは男性との情報だった。
 生体融合兵器であるはずがない。
『仕上がって間もないのですが、ふたりとも元はSSダブルエス級のパイロットです。それがあの機体に搭乗している』
 苦々しい感情が武蔵坊から伝わってくる。
 一条はこの土壇場での投入に疑問を抱いた。
「誰の差し金や」
 迷いなく核心に触れる質問が向けられた。
 勘のいい一条らしい、と武蔵坊は思う。
『人事部では?』
「あほか。惚けんとちゃんと答ぇ」
 一条の指摘に武蔵坊は苦笑した。
『――多分、総帥執務室から直接の配属です。柴崎一興かずおきと立川健一朗。前歴は空母フェニックス指揮官。HEAVENに来てからは軍開発研究部に籍をおいていた。どこの隊にも所属歴が無い。指示は全て、ジェイド・ブロンディ』
 武蔵坊の報告を聞いて、一条に笑いが込みあげる。
「また『ジェイド』かいな。フェニックスに随分肩入れしとるやん」
 フェニックスがセレス艦隊から独立し、新たにフェニックス艦隊として編成されるとき、その指揮をとっていたのがジェイド・ブロンディだった。
 フェニックスが現在の戦力を持つに至ったのは、ジェイド・ブロンディの思惑が絡んでいると主力艦隊の将官は気付いている。
「まあ、俺らの後ろにも『聖』が居るさかい、何も言えんわ」
 一条は苦笑して返した。
「総帥執務室で、手駒戦わせて楽しんどるのちゃうんか」
 ニヤリと笑って応える一条に、武蔵坊も失笑する。
『そこまで分かっていて、あえて従順でいるのですか?……似合いませんよ、提督』
「ええやん。ここまで再生できたんは聖の胸ひとつやった。感謝せな」
 本気で言っているのかどうかは分からない。
 しかし、一条がそういうスタンスを貫く方針を取ったのなら武蔵坊はそれに従う。
「ほんで、その新型やけどな。ジブンら沈めてこい」
『自分がですか?』
 唐突な指示に、武蔵坊は目を丸くした。
『せや。倭とふたりで、例の機体で返り討ちにせえ』
 この提督は、それぞれの事情というものをきちんとわきまえた上でものを言わない。
 武蔵坊は呆れていた。
『陽本は怪我人です』
「クスリたんまり使たらええねん。兵隊がなに甘ったれたコトぬかしとんねや」
『しかし、梵天の指揮は……』
「心配すな。俺がまとめて面倒見たるさかい、あれを潰すんが先決や」
 こうなったら、誰が何を進言しようとも変わらない。
 武蔵坊は諦めの境地に立った。
『分かりました。それでは、後をお願いします』
 武蔵坊はそう言い残してディスプレイから姿を消した。





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