聖戦の礎 ―出征編― (完結) 再会5 「幸い、HEAVEN側から申し入れがあって、クロイツ総帥がHEAVEN総帥と会合する為にHEAVENに赴いています。わたしとしては、その吉報を待っている」 「軍事援助のみで乗り切ると?」 同じ統治国家元首であっても、政治家であるロバートと軍人であるホフマンとは、最終目的が同じだとしても選択する手法が違う。 「現在は……。もう少し様子を見たい。早く決着がつけば、備蓄資源だけで乗り切る事も可能でしょう」 ロバートは、聖がクロイツ総帥との交渉に乗り出している事を知っている。ホフマンの態度から、その交渉は締結されると予測できた。 「分かりました。HEAVENからお帰りになる総帥は、きっと吉報をお持ちになるでしょう。われわれ外交官は、申し出があればいつでも応じられるよう待機しています」 ロバートは、大統領自ら赴いておきながら、自分を外交官と称してこの結論をやんわりと納めた。 そして、内ポケットから一枚のカードを取り出して、ふたりの間を遮っているテーブルの上を滑らせた。 「わたしのアドレスです。御用の際は、直接メールして下さい」 ホフマンはカードのアドレスを眺めて苦笑した。 HEAVENとヴァナへイムを結ぶ、公のラインは存在しない。 裏のアクセスを前提としての申し入れには、苦笑するしかなかった。 「感謝します。ケネディ大統領」 ホフマンはカードをケースに入れて、内ポケットにしまった。 「――時に、ご同行頂いている軍の方がいらっしゃるようだ。その方は?」 「セレス艦隊提督です。今回はわたしの護衛のために、艦隊を機動させました」 「手厚い護衛でしたな。その方が安心だ。もう、何があってもおかしくはない状況です」 ホフマンは沈痛な面持ちで、視線を落とした。 そして、決然と視線をロバートに向けた。 「早速ですが、その軍の方にお逢いしたい。HEAVEN防衛軍の将官が、この事態と交渉をどうお考えになっているのか確認したい」 「提督自身にですか?」 「そうです。出来得れば、すぐにでも作戦会議を」 随分性急な申し入れだと、ロバートは訝しんだ。 しかし、何程の腹があるとも思えない。 実際は、事態がそれだけ切羽詰まっているのかもしれない、とロバートは判断した。 「それでは、艦隊の参謀もコールします。お力になるでしょう」 護衛艦で待機するジェフを官邸に呼び寄せるため、携帯を手にした大統領だったが、それはホフマンに制止された。 「それには及びません。提督にお出で頂いておりますので、その方だけで十分でしょう。護衛艦を空にするのは危険です」 結局、ロバートは、ホフマンの申し入れを受諾し、別室で海兵隊と共に待機していたウィルを、ホフマンの指定した執務室へと向かわせる事になった。 事情を聞いて、どうして自分が……と、ウィルは疑問に思っていた。 HEAVEN防衛軍との直接のコンタクトを求めるのは性急すぎる。 ウィルも、ロバートと同様に訝しんだが、ここで自分が大統領を差し置いて人質になるとも思えなかった。 大統領をSPと共に先に帰して、ウィルは海兵隊の数人だけを別室に待機させ、ホフマンに逢うため執務室のドアを開けた。 [*前へ][次へ#] [戻る] |