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聖戦の礎 ―出征編―  (完結)
決意2





 ヴァ・ルーには、常に聖の監視下にある事を義務づけていた。
 ルールにはいつもきちんと従うヴァ・ルーが、どうして突然自律行動に出たのか。聖にはその理由が判らなかった。
 施設内の行動でもある。
 大した問題ではない。
 しかし、ヴァ・ルーが初めて柴崎と健一朗以外の人物に関心を持った。
 それは、聖にとって非常に興味がある。
 それがただ単に個人的な興味なのか、管理者の立場としてなのか、聖自身にも判らなかった。
 しかし、いずれにせよふたりの関わりをもう少し見てみたいと思う。
 研究室の端末に、総帥執務室のデータを呼び出して、たまっていた仕事を少しだけ片付けてから、ふたりがなかなか戻ってこないのに気付いて、聖は研究室から出て所内を探索した。
 広々として整然とした所内の雰囲気は統合本部の上層階部分に似ているが、そこを行き来する人種はさすがに本部とは異質だった。
 学者と技術者たちの独特の風貌と会話。
 通路を歩いていても、誰も自分を『総帥』とは気付きもしないで、軽く会釈するだけで通り過ぎていく。
 世界が違うのだと、聖は実感した。
 長く続いていた通路の先を見ると、人だかりが出来ていて何やら騒がしい。
 この研究所に似つかわしくない様子に、聖はふたりの所在を予感した。
 人だかりが出来ていたそこはカフェテリアで、見物している職員をかき分けて入口にたどり着いた聖は、テーブルを挟んで向かい合うふたりを見つけた。
 小綺麗になった小松原とヴァ・ルーが軽食をとっている。
 そして、あろうことか、ヴァ・ルーが小松原を口説いている真っ最中だった。
 聖は唖然としすぎて、口をぽかんと開けたまま、入口からふたりを見つめ続けた。
 小松原のウエーブがかった長い髪を指先で弄んで、熱っぽい視線を送っているヴァ・ルー。
 ただでさえ目立つ人物なのに、人目もはばからないモーションに、周囲のやじ馬たちは映画でも見ているような気分でうっとりと見とれていた。
「彼女とは、逢っていないのか?」
「ああ。もう半年になる」
 小松原は、動じるふうでもなく、スープを口に運んでいた。
「寂しくないか」
「いや……そりゃあね、付き合い長かったけど、遂にって感じで」
 諦めの表情でため息をつく。
 小松原の手が止まって、何かを思う視線が力なくテーブルの上に落ちた。
 その一瞬、ヴァ・ルーはテーブル越しに身を乗り出して、ふんわりとくちづけを贈った。
(――うちの子が!あの純情だったルーが、人様になんて事をっっ!?)
 聖は驚き過ぎて、人格が崩壊しかかっていた。
 クレア人の生態がよく判らない小松原は、その行為がどういう意味なのかを色々考えているうちに、結局は何のリアクションも起こせなかった。
「美味しいね」
 ヴァ・ルーが微笑みを向ける。
「うん……」
 再び意味を考える。
 しかし、やはり判らなくて、小松原はヴァ・ルーに尋ねた。
「なんで、口つけるの?」
「美味しそうだったから」
 もしかして、スープか?スープの事なのか?……と、深読みする。
「ヴァ・ルーも同じのあるだろ?」
「うん」
 ヴァ・ルーは既に愛情を持って、熱い視線を送っている。
 しかし、会話が全く咬み合っていない事に、互いに気付いていない。




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あきゅろす。
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