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聖戦の礎 ―出征編―  (完結)
騎士3





「――で、どうしてこんな、同伴出勤風に艦内を歩かねばならんのだ?」
 杉崎は、右腕に森の肩を抱いて、不服そうに歩いた。
「あからさまに銃突きつけてなんて歩けませんよ。怪しまれます」
 森の右手には銃が握られており、それは寄り添う身体に隠されて端からは見えない。
「この方がずっと不自然だと思うんだが……」
「いえ、僕たちの熱愛発覚が報じられるだけです。大丈夫ですよ」
 杉崎は食傷気味になる。
 大体、このペーペー指揮官に、いいように操られるのも何だか気に入らない。
 杉崎は、気を取り直して、この機会に『やりたい放題』を決め込んだ。
 ちょうど肩に触れる森の頭に頬を寄せて感触を楽しむ。
 若い男子の爽やかな芳りが、杉崎にリラックス効果をもたらした。
「――蘭丸くん。君、いい匂いだね」
「え?……ちょっと。何するんですか!?」
 突然のセクハラに森は動揺した。
 杉崎は森の動揺など全く気にも止めないで、さらにその髪に指先を滑り込ませて感触を楽しむ。
「や……やめ」
 首をすくめた森の顔が赤らんだ。
 触れられる事に、嫌悪感ではなく羞恥心で応える相手に興味が湧く。
 いい気になった杉崎は、更にエスカレートして、森の身体を抱き寄せて、軍人にしては小柄で華奢な身体の感触を思う存分満喫した。
「……止めて下さい。部下に手を出すなんて」
「もう部下じゃない」
「しかも酒臭い。何で?」
 杉崎は森の抵抗など意に介さず、触れるのを止めようとしない。
 森は、気力を振り絞って杉崎から離れて銃口を向けた。
 殺気が、起こされた撃鉄に込められている。
「――撃ちます」
 緊張に高揚して呼吸が荒い。
「はい。済みません」
 杉崎は両手を上げて降参ポーズで神妙に返した。


 森が乗ってきたガイアスは、堂々とハンガーに納まっていた。
 管制室と情報室は、一体何をやっているのか、と杉崎は呆れた。
 ハンガーに詰めていた整備管理官が、杉崎のガイアスへの搭乗に気付いた。
 森に促される姿に、いささかの不審を抱く。
 しかも、パイロットスーツも着用していない杉崎は、指揮官用ユニフォームすら着用せず。ワークパンツにサンダル履きといった考えられない姿だった。
「提督。どうされました?」
 整備管理官が傍にやって来て、杉崎に確認する。
 森の表情が硬くなった。
 杉崎は緩く笑って整備管理官に応えた。
「ちょっと、隼人の所に行ってくる。もし、立川が俺を捜して来るような事があったら……そう伝えてくれ」
 こんな時に、急ぎの用とは一体何なのか。整備管理官は訝しむ。
「俺がいるからと言って、遮那王への攻撃の手を緩める必要は無い。これはブリッヂへ伝えてくれ」
 どうやら、真実は別のようだ。整備管理官は、杉崎の目をじっと見つめて本意を推し量る。
 杉崎は、彼の表情から意志が伝わりそうな可能性を見いだした。
 森の死角になっている右手で、簡単な手話を使って整備管理官へ発令する。
「――時間だ、行くぞ」
 杉崎は意味深に笑って言い残した。
 整備管理官は、胸につけた右手の親指を立てて、了解のサインを返した。
 緩い笑顔を返して、杉崎は昇降機に移って、ガイアスのコックピットに乗り込んだ。





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