聖戦の礎 ―出征編― (完結)
迎撃8
杉崎は、立川のウィザードに対してフェニックスの支援任務の継続を命じた。そして、立川から静香を引き離し、フレイアの機体ごとフェニックスに連行した。
自分だけが戦場に残されて何故杉崎が帰投するのか、立川は納得がいかなかった。しかも、捕虜へのセクハラ禁止を申し渡されて楽しみを奪われた。
立川は、その欲求不満を解消するかのように群がる敵機を迎え、いたぶるように追い込んで追撃する。
質の悪い戦い方だと苦笑する杉崎は、そのまま全てを立川に任せて帰投した。
提督執務室に連行された静香は、杉崎に着替えを貰ってパイロットスーツを脱いだ。
今まで立川がゴロゴロしていたソファーに、緊張して座っている静香は、以前の静香となんら変わりなく見える。
フレイアのコックピットに、静香を迎えに出向いた杉崎は、そのシステムを目の当たりにして驚かされた。
事前情報はあったものの、その実態を見てしまうとさすがに衝撃を禁じ得ない。
ましてや立川はどう感じただろう。
あの動揺は、仕方がなかったと察する。
間もなく、シェフが杉崎の依頼通り、食事をワゴンに乗せてやって来た。
杉崎は満足げな笑顔でシェフに礼を返した。
静香は呆れた。
仕事中にこんな事が許されるのか、と杉崎に詰め寄ったが、事もなげにあしらわれて、秘蔵のワインを勧められた。
「これは、美味いぞ。呑んでおけ」
微笑む杉崎の魂胆が分からない。
静香は勧められるまま、ワイングラスを口元に寄せた。
芳醇でフルーティーな薫りが誘う。
一口含んでその新鮮なまろやかさに驚く。
今まで、口にしたことのない味わいだった。
「美味しい」
陶然とした静香に、杉崎は食事を勧めた。
あまり空腹ではないと応える静香に、それでも杉崎はそれを勧めた。
なぜこんな見るからに上等な食器類が空母にあるのかと訝しい。しかし、シンプルだがそれ故上品で美しい器に、彩りよく盛りつけられた一品料理の数々が静香の目を楽しませる。
魚介とフルーツのサラダを一口、舌の上に乗せて、また驚いた。
「美味しい」
静香の素直な反応を見て、杉崎は微笑む。
「良かった。気に入ったようだな」
テーブルを挟んだ向かいのソファーにくつろいで、ワイングラスを傾ける杉崎は、食事をする静香を満足そうに見つめている。
半年前、静香は特別編成の新型機パイロットに志願して、フェニックスを離れて行った。
その新型機とパイロットの調整は、極秘に行われていた為、必然的に関係者は世間から隔絶された。静香も同様に調整と訓練の毎日で、親しい者と離れ、こんな時間を持つ事すら叶わなかった。
そして、フレイアのパイロットとして完成したその後の配属は、フェニックスではなく梵天王だった。それは、静香にとっても杉崎らフェニックス関係者にとっても予想外の事だった。
静香がどうして新型機のパイロットに志願したのか。どうして立川の元に帰らなかったのか。
少なくとも、自分の存在が理由のひとつであろう事は予測できる。
以前も『杉崎を放ってはおけない』と言って司令部から転属した立川は、静香に離婚されてまでフェニックスに帰ってきた。
自分に執着する立川の在り方は、静香の目にはどう映っているのだろう。
杉崎はそれも含めて静香の思いを知りたかった。
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