聖戦の礎 ―出征編― (完結) 迎撃7 開いた通信が艦長席に転送され、一条の目の前に武蔵坊が現れた。 森を膝に抱く一条の姿を確認して、いささか驚いてから、不愉快そうな表情を向けてきた。 「何でしょう、提督」 一条は、我が意を得たりと言わんばかりの、魔性の微笑みを返した。 「ヴァルキュレイが帰還する。おなごども全員、立川に発情させられて帰ってきよるさかい、あんじょう慰めたれや」 「セクハラは禁止です」 武蔵坊はさらに不愉快になった。 戦闘レコードの同時報告は、勿論武蔵坊の元にも届いており、彼女たちに何が起こったのかは解っている。 しかし、だからといってそこまで面倒を見る必要はない。 「何がセクハラや。身体張っておなご教育するのが、男の務めやん」 「だったら貴方がそうしたらいかがですか?」 「巨乳好きのムッツリすけべがよう言うわ。ホンマは役得や思て……」 「出来ません!! お隣に凄い形相で睨んでいる者も居りますし」 一条は指摘された隣を見た。確かに、森の表情が険悪になっていた。 しかも、注意して見ると、武蔵坊の隣にも森と同様にこちらを睨んでいる人物がいる。 ふたりのやりとりを聞いていた陽本が、批難の視線を一条に向けていた。 「――それよりも、フレイアがフェニックスに捕獲されました」 制御不能となった機体と、操縦不能に陥ったパイロット。それらはまとめてフェニックスに収容されてしまったらしい。 「しゃーないやん。あれは、元々立川の嫁やし」 「関係ありません」 容赦なくバッサリと切り捨てられた。 一条は、やれやれ……と言った表情でやり過ごす。 「梵天は、指示通りヴァルキュレイ隊のメンテナンスに入ります。遮那王はフレイアを奪い返しに行って下さい」 「おのれに言われんでも、最初からそのつもりや」 「お任せします、提督」 そう言ってから、しばし無言で一条を見つめる。 そして、武蔵坊の眉間が険悪に歪んだ。 「……で、どうしてそんなに、くっついて座っているのかな?」 武蔵坊の指摘は森に寄せられた。 「あ、あの。理由なんて……その」 実際はくっついているわけではなく、一条に拘束されていたに過ぎない。 それでも森は動揺した。 すると一条は、これ見よがしに森を抱きしめた 「せや、理由なんてあらへん。仲良うして何が悪いねん」 「それもセクハラというのではありませんか?」 陽本が、初めて出会った時のような冷たい視線を向けて指摘する。 マイナス30度の凍て付く体感を思い出して、ゾクゾクしてきた。 「あらへんって」 一条はこの上なく嬉しかった。 「――ほな、これから俺らはフェニックスとりに行くさかい。おなごども任したで」 武蔵坊への嫌がらせが実って、満足した一条は、一方的にラインを切った。 「さあ、行こかあ。姐さんの奪回は、蘭ちゃんが行くんやで」 「僕がですか?」 「せや。フェニックスの内情に通じてんねや。適任者やん。……しっかりお役目果たすんやで」 魔性の微笑みが森にも向けられた。 もし、任務を遂行出来なかったとしたら、どんな運命が自分に待ち構えているのだろう。 森は怖くて何も言えなかった。 「――了解しました」 半分泣きそうになりながら、素直に命令に応じる。 本当は自信がなかった。 「素直やなあ蘭ちゃん。それでええ」 一条は、目を細めて笑った。 [*前へ][次へ#] [戻る] |