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終焉の時はなく
BLUE3



 フェニックスのハンガーでは、杉崎を含むガイアスとパネッシアのパイロットたちが集結していた。
「敵の目的は陽動か斥候だろう。積極的に接触してくるとは思えん。だが、可能なら奴らとコンタクトをとりたい。もし、交戦が避けられなくなったとしても、なるべくエンジンは撃らないで……」
 杉崎の指示に、パイロットたちは茫然とした。
「そんな、器用なこと」
 絶対に出来ない。
 中田の目が杉崎に訴えていた。
「無理にとは言わん」
「パワードスーツを無傷で手に入れるということですか?」
「いや、パイロットが……。まぁ、捕虜が欲しいってとこかな」
「捕虜、ですか」
 静香が情けない声で、自信の無さを訴える。
 そこに、野村を連れて立川がやってきた。
「杉はん。パネッシアのパイロットだ。こいつが一番適任だと思う」
「副隊長か。いいだろう」
 自分をカヤの外に置いたまま話しを進める立川と杉崎に、野村は疑問を抱く。
「あの……パネッシアのパイロットですか?自分が?」
「ああ。1号機が使えるから、俺の足になってくれ」
 杉崎の依頼に、野村は露骨に顔を歪めた。
「1号機って……事故機じゃないですかぁ」
「修理は済んでいる。戦闘に支障はない」
「嫌ですよぉ、縁起が悪い。あれでひとり戦死してるんですよ?」
 野村は情けない顔で訴える。
 杉崎はその嫌がり様に疑問を抱いたが、早乙女の死亡情報を思い出した。
 そうなると、杉崎にも野村の気持ちは分からないでもない。
「仕方ない。立川、お前が1号機を使え。野村は2号機を。これで文句なしだ。いいな?」
 杉崎の采配を、立川は快く引き受けた。
 パイロットたちは、そんな立川に対して驚きと羨望の眼差しを向けた。
 何事にも動じない立川の様子は、大物としか言いようがない。
 しかし、事情を知っている立川にとっては、彼らの認識とは反対にコックピットが大破してもパイロットは生存している1号機は縁起のよい機体だ。
 その後、杉崎の指示によって、パイロットたちは各々の機体に搭乗し、管制室からの発進許可を待った。
(敬……大丈夫かしら。あんな事故機で)
(立川さんの愛機を使わせてもらえるなんて。役得だなぁ……)
(うふふ……一緒のチームで出撃できるなんて。立川大佐に感謝しなきゃ)
(細かい事にこだわらないのが、出世の秘訣なんだろうか)
 コックピットで、それぞれの想いを抱きながら発進を待つ。やがて、誘導灯が緑色に変化して発進許可と命令が下され、混成部隊は次々とカタパルトから射出されていった。



(ガイアスが3機?)
 斥候部隊の出撃を、メディカルセンターから偶然目撃した響姫は、いささかの動揺を禁じ得なかった。
 ガイアス全機の出撃は、すなわち杉崎の出撃を意味する。
 その出撃の理由が自分にある事を響姫は知っていたが、自らが望んでいた事なのに、今になって動揺する。
 響姫は自分自身の不可解な感情をもてあましていた。本当は、早乙女の死を望んではいないのか。それとも、自分を置いて杉崎ひとりが出撃したことへの不満なのか。
 響姫は、未だ整理出来ずにいる想いに苛立ちを覚えた。
「何を動揺してるんだ……。俺は」
 自身の迷いを修整するかのように、響姫はふたたび端末に向かって医師記録を続けた。



「また攪乱か……。嫌なもんだな、レーダーが全く効かない」
 野村のパネッシアにガイアスの機体を積載した杉崎は、荷電粒子によってノイズに満たされたレーダーをながめて苛立ちを見せる。
「通信もよく通りませんね。パネッシアの視界はガイアスの半分ですから、自分は眼も利きません」
 野村が回線を通して返してきた。
「赤外線と干渉波に切り替えるか。視野が狭くなるが仕方ない。あとは自分の眼が頼りだな」
「お願いします」
 しばらく偵察を続けていた彼らは、HEAVENの重力圏に引き込まれ、そのまま衛星のように漂う小さな天体を発見した。
「サターンです。もとは彗星だったものですが、50年ほど前からHEAVENの引力圏に引き込まれました」
 静香の声が立川に告げる。
「行ってみよう。発光を確認した。何かある」
「その裏に、何か隠されているとでも?」
「常套手段だな」
「コマンドの基本ですね」
 ふたりは思わず失笑して、明らかに自分たちを誘っているかのように存在している天体へと接近していった。




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あきゅろす。
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