終焉の時はなく
MASCHERA3
「俺はシャワー浴びて着替えてくるけど。君はどうする?」
立川はパイロットスーツを身につけてから静香の頬に軽くキスを贈った。
「そうね、わたしもシャワー浴びて……。食事して。少し眠るわ」
「じゃあ、後でダイニングルームで会おう、先に行ってる」
微笑みで返す静香に、立川は同様に笑顔を残して部屋を後にした。
「さて……と」
静香は一息つくとベッドを離れてバスルームに入った。
給水調節のための小さなパネルに手を触れて、適温の水がシャワーから降り注ぐ。やわらかな水の流れに身体をあずけて、静香はふと笑みを洩らした。
(あのひとのパイロットスーツ姿見たのなんて、そういえば初めてだった)
身体にまとわりついていた不快な汗を洗い流しながら、共に戦った時の事を思い出す。
(多分、あのひとの魅力の半分しか知らなかった……。軍人として、あんな素敵なひとを知らないなんてもったいない。戦場でもパートナーになれるなら役得じゃない)
その穏やかな微笑みのなかには、強い意志が隠されている。
(わたし、足手まといにならないように頑張らなきゃ)
静香は、ふたたびパネルに手を触れて水を止め、バスローブを羽織ってバスルームから出た。
室内の椅子に腰掛けて濡れた髪の滴をバスタオルで拭いていると、そこに橘が訪れた。静香はドアのロックを手元のコントローラーで解除して橘の入室を促した。
「姉さん。一緒に食事でも……」
ドアを開けて入って来た橘は、静香のバスローブ姿に声も出せない程驚いて、慌てて背中を向けた。
「そんな格好している時に、人を部屋ん中に入れるなよっっ!」
橘は狼狽しているが、静香は全く動じる気配を見せない。
「何言ってんの?ちゃんと着ているじゃない」
静香が事もなげに言うと、橘は静香に向き直った。
「そういう姿が誘うんだ……ってわかんないの?」
橘の意外な言葉に静香はきょとんと目を丸くした。
「翔……誘われるの?」
静香が何げなく訊ねると、橘は一瞬にして耳元まで赤くなって動揺を見せた。
そこに、ノックもなく不躾に葵が入ってきた。
「静香せんぱい。ごはん食べにいきませんかぁ?」
元気よく入って来た葵だったが、ふたりの姿を見ると「あぅ!?」と、ひと声あげて後ずさった。
「違う!藤峰さん。僕たちはきょーだいだから!」
橘はあわてて釈明したが「大丈夫です。わたし、こういうの一応理解あるつもりですから」と、葵は動揺して真っ赤になりながらも真剣な表情で応えた。
「誤解だってば」
橘は必死に葵に説明しようと苦心していたが、静香はそれをあっさりとあしらった。
「あなたたち何騒いでんのよ。葵も変な事想像してんじゃないわよ」
静香の一言に、ふたりは圧倒され黙り込んだ。
「わたし着替えるから、外で待ってて」
邪険にされたふたりは、外に締め出されてから互いに顔を見合わせた。
「だから、違うって言ったのに……」
橘の恨みがましい言葉に、葵は面目なさそうに身を縮めた。
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