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終焉の時はなく
眠り3



 戦場から離脱し、旗艦アドルフに着艦したブレンダ隊は、フライトデッキに人がまばらになってきたのを確認してから自分達のドレッシングルームへ戦利品を運び込んだ。
「これ……死体なんじゃないの?趣味悪いよブレンダ」
 ブレンダ隊のメンバーのひとり、姉御肌で他の隊の操縦士たちにも慕われている亜麻色のショートヘアが魅力的なパイロット、コニーが訝しげに訊ねた。
「そう言うのは、こいつを見てからにしなよ」
 ブレンダは、戦利品である敵兵をソファに寝かせると、そのヘルメットを脱がせて床に放った。ヘルメットの下からは、穏やかに眠っているような早乙女の顔が現れ、隊員たちは一斉に固唾を飲んだ。
「生きてんの?」
「勿論。いくら綺麗なボウヤでも、死体にゃ興味ないよ」
 ブレンダは満足そうな微笑みをうかべて応える。
「オリエンタルだねぇ……」
「囲って、可愛がってやりたいタイプ」
「美味しそう……」
 メンバーは早乙女に見惚れていた。
「だろう?だから苦労して、ここまで連れて来たんじゃないか」
 ブレンダは、早乙女のパイロットスーツをはだけさせて、外傷を調べはじめた。身体に傷は無く、機体の破壊と宇宙に投げ出されたショックで失神しているだけの様であり、それを確認してからブレンダはほくそ笑んだ。
「さて、早いとこやっちまおう」
 ブレンダがそう言って早乙女の上半身を裸にすると、メンバーたちは動揺して赤面した。
「ブレンダ……」
「こんなとこで?」
「ちょっと、性急すぎやしないかい?」
 メンバーが口々に言うと、ブレンダまでも真っ赤になって「なに勘違いしてんだい」と、慌ててメンバーの邪な考えを否定した。
「コニー。医務室からIVセットとトリップ持って来て。4本ぐらいね」
「なに?洗脳すんの?」
「記憶を上書きして仲間に仕立てあげるのさ。洗脳なんてしちゃあ、面白くない。あたしはこのボーヤ を楽しみたいんだよ」
「性格悪かったらどーすんのさ?」
「その時は、トリップ漬けにして洗脳してやるさ」
 ブレンダは事もなげに答えてから、早乙女の胸に下がっている認識票を確認した。
「SHINGO.SAOTOME。日本人か。……可愛いサムライだな」
 嬉しそうに微笑みをうかべて、早乙女を見つめる。
「だけど、未登録の兵が艦内をうろついていたら、怪しまれるよ」
「あんたがそんな事を言うなんてね。情報操作はあんたのお得意だろ?セシル」
 ネットワークに精通している知的なセシル。その知性は犯罪に傾倒していて、ブレンダはそんなセシルに指摘して共謀をほのめかす。
 メンバーたちは、ブレンダの熱意に負け、結局は早乙女の記憶の入れ替えを手伝う羽目になった。
 早乙女は、薬で記憶と感情を乖離させられ。朦朧とした意識下で悪夢にさいなまれながら、長時間にわたって改ざんした記憶を上書きされた。
「こいつの記憶からフェニックスの情報をとらなくてよかったのか?少しは戦の役に立つんじゃ……」
 コニーがベッドに眠る早乙女を眺めて、気になっていたことを口にする。
「下種な連中に取り入る気はないね。大体そんな情報を流したりしたら、反対にあたしらが怪しまれるじゃないか。」
 ブレンダの言葉にシェーラザットが失笑した。
「随分、毛嫌いしてる」
「力で女を征服しようなんて男は後免だ」
 ブレンダは嫌悪感を露にし、そう言い捨てた。
「ふーん。じゃ、こういう言いなりになりそうな男がいいわけ?」
 メンバーのひとり、スカーレットが訊ねた。ブルネットのロングヘアと匂い立つような色気を纏う彼女は、艦内の女色好きに対して毒を振りまく存在だ。
「いや、そういうわけじゃ……」
ブレンダは早乙女を見て、答えに詰まった。
「寝てみなきゃ、わかんないね」
 ブレンダは、気まぐれで拾ってきた早乙女が、パネッシアのパイロットである事など知る由もない。
 確かに、記憶の操作をする際に過去の記憶を分析する事も可能だったが、ブレンダはそんな事には興味がなかった。認識票で知り得た早乙女の名前だけを残し、あとは新しい記憶に塗り替えた。

 早乙女に新たに与えられた所属は、皮肉にも、彼が沈めた戦闘艦シュミットの戦闘機パイロットだった。



 早乙女は、近くから聞こえる何かの水音に覚醒を促され、長い眠りから目を覚ました。
(何処だ……ここは?)
 ベッドの上で仰臥したままぼんやりしていると、シャワー室のドアが開いて半裸のブレンダが現れた。薄暗い室内でその姿を確認し、まだよく働かない頭で、一体それが誰なのかを考えていた。
 ブレンダは、早乙女が目覚めている事に気付いて、そのままベッドに腰掛けた。
「目が覚めた?シンゴ」
 早乙女のひたいにかかる前髪をそっと撫で上げ、問いかける。
「ごめん……誰?」
 早乙女はまだ眠そうな声で尋ねた。
「ブレンダよ」
 ブレンダはそっと囁きながら唇を重ねた。
 早乙女はごく自然に受け入れてそれに応える。
「ごめんブレンダ。僕、寝ちゃったんだね」
「いいのよ」
 ブレンダは満足そうに微笑むと、身を包んでいたバスタオルをとってベッドにもぐりこんだ。そして、早乙女の上に身体をあずけると、ふたたびキスを贈り、触れる舌を軽く撫でて早乙女を誘った。
「……抱いて、シンゴ」
 ブレンダは早乙女の首に腕をまわして甘えてみせた。
 早乙女は、その誘いに穏やかな微笑みで応えて、ブレンダの白い胸元に唇を寄せた。

 謀の成功に満足したブレンダは、早乙女の肩を抱きながら深い思惑を秘めた微笑みをたたえていた。




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あきゅろす。
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