[携帯モード] [URL送信]

終焉の時はなく
inside4



「ハンナが?」
「はい。今後、ゲオルグのパイロットとして使うようです」
「ふ……ん」
 執務室でくつろぎながら、親衛隊からの報告を聞いていたホフマンは、ふと考え込む。
「それは、ハンナの意志なのか?」
「はい。サオトメはルビーシュタイン閣下の命を受けて、閣下の配下に入りました。野心を抱いての事では無いと思われます。」
「そうか」
 今まで、多くの野心家達が総帥の地位を狙ってハンナに取り入って来た。しかし彼らは巧妙に、ホフマンの手によって葬り去られた。
 総帥の椅子を狙う者の存在も、ハンナを踏み台にしようとする男の存在も、彼にとっては許しがたい。
 ハンナにその思いが伝わらずとも、彼はもう、ずっと昔から変わらずにハンナを愛し続けている。
 ホフマンはおもむろに胸ポケットから、ひとつの認識票を取り出して眺めた。
「HEAVEN防衛軍、大尉か……」
 ブレンダが捨てたはずの早乙女の認識票が、今はホフマンの手に渡っていた。
「サオトメの記憶は、封じられたままなのか?」
「はい。連邦の兵であると告知されても、具体的に思い出した様子もありません」
「そうか」
 ホフマンはまた考え込んだ。
 ハンナ自ら手に入れた男の存在に、それまでとは違った興味を抱く。
「どういう男なのだ?年齢、外観……貴公も逢ってはいるのだろう?」
「はい。年齢は二十歳前後かと」
 ホフマンは驚いて訊ね返す。
「二十歳?」
「は。その……。東洋人の年齢はどうもよく分かりにくいため、自分も判断しかねますが、おおよそその位かと」
 ホフマンは、何も言えなかった。ハンナが手に入れた男が、そんなに年若いとは思いもよらなかった。
「しかし、自分には、筋金入りの軍人かと思われました。訓練と実戦を重ねた、実力あるパイロットかと……。外見は、全くそうは見えないのですが」
「具体的には?」
「紳士的で物腰の柔らかい。……。ご婦人には、相当受けが良いタイプかと思われます」
 それではまるで、ハンナが若い愛人を囲ったみたいではないかと、ホフマンは呆気にとられた。
 しかし、ホフマンはさらに早乙女に興味を抱く。二十歳の若さで大尉の位を持ち、特別な執着を持たずに環境に順応していく。その柔軟な様が早乙女のしたたかさにも思えた。
「中佐。サオトメのHEAVENでの身柄を調べてくれ。ものによっては、使えるかもしれん」
「わかりました」
 敬礼し退室する親衛隊の者を見送って、ホフマンは再び早乙女の認識票を眺めた。銀色に輝くそれは、まだ見ぬ恋敵の物でありながら何故か心魅かれる。
「使える玩具なら……わたしも欲しいところだ……」
 ハンナが新しく手に入れた、愛玩物。
 ホフマンは早乙女をそう評価し、嘲笑をうかべた。




[*前へ][次へ#]
[戻る]


あきゅろす。
[小説ナビ|小説大賞]
無料HPエムペ!