終焉の時はなく mission7 黒木の横では、銃把で杉崎を殴った土井垣が、思わずとってしまった自分の行動に困惑して苦笑していた。 「まずかった?」 「いや、よくやった篤士」 いささか困惑ぎみの表情だったが、黒木もまたそうしていたかもしれないと思うと、土井垣を責められはしない。 撤退命令を出そうとした時、ふと、黒木の頬を柔らかな風が撫でていった。 「――風?」 土井垣の長い髪が、ゆるやかに風になびく。 「外壁が破られたのか?」 黒木は、即刻撤退命令を出した。 「撤収――っっ!」 やって来た通路を反対に辿りながら、輸送船の待つ貨物用の港口へと向かう。 へルヴェルトの兵は追ってはこなかった。彼等もまた脱出しなければならない。事態は切迫していた。 港に到着してから彼等は愕然とした。輸送船もろともゲートが破壊され、外壁のところどころから空気が漏れ出していた。 「なんて……こった」 隊員達は、さらなる緊急事態の発生に狼狽しはじめた。 そのとき、彼等がやって来た通路の反対方向から味方のパイロットが走って来た。 「黒木さん!」 近づいてくるパイロットの声を聞いて黒木は驚いた。 不意に胸が熱くなる。 「野村曹長……」 「無事で良かった。撤退ですか?」 傷ついた戦士たちの笑顔を眺めて、安心して笑顔を返す。 「ああ……」 黒木は嬉しかった。こんな命令を出す上官などいないはず。多分、彼は自分の意志でここまでやって来たのだろう。そう思うと矢も盾もたまらず、黒木は野村を抱き締めた。 しかし、輸送船は破壊された。 野村はガイアスでやってきたはず。全員がここから脱出する事は不可能だ。 黒木は、回りの隊員達と視線で確認した。 隊長の言いたいことは解る。 そんな笑顔が黒木に返された。 「曹長。君は、艦長を連れてここから脱出してくれ」 「え……?」 「君に任せた方が艦長は安全だ。心配ない、気を失っているだけだ」 「そうじゃなくて。どうして……」 そこまで問いかけて、野村は何かを感じとった。 「まさか?」 野村の疑問が現れそうになったとき、隊員達は野村の疑問を丸め込んだ。 「ききわけのねーオヤジでよお。苦労したぜ」 「ホント……もう二度と組みたくねぇ」 「さあ、キリキリ案内してもらおうじゃん」 強引な海兵隊に急かされてガイアスまで到着すると、彼等は有無を言わさず杉崎と野村をコックピットに押し込んだ。 「頼んだぞ曹長。ここはもうすぐ爆発する。急いで離脱していってくれ。くれぐれも巻き込まれるんじゃないぞ」 まるで最期の別れのような口ぶりに、野村の鼓動が早まる。 「黒木さんは?」 信じたくない現実が、野村を襲って来た。 「俺たちはうまくやる。心配するな」 「そーそー。……オヤジを頼んだぜ」 「暴走するからなそのオヤジ。ちゃんと監督しろよ」 憎まれ口を叩く彼等は、何かを悟り尽くしたような笑顔を向けてくる。 「いや……だ」 野村の顔が悲壮な表情に変わった。 「嫌だっっ!皆んな一緒にっっ」 「ありがとう……貴史」 穏やかな微笑みとキスを残して、黒木は外部からコックピットのハッチを閉じた。 「黒木さん!」 コックピットから叫ぶ野村の姿に、最初で最後の敬礼を残して、彼等はふたたび要塞内へと姿を消して行った。 「黒木さんっっ!!」 悲痛な叫びは、やがて涙に曇っていった。 どうにもならない運命に野村は抗えない。 黒木が最後に自分に託した杉崎を、フェニックスまで無事に連れ帰るしかなかった。 全身を襲う悲しみとどうしても後を追いたい衝動に逆らい、最後の気力を振り絞って野村はガイアスを発進させた。 [*前へ][次へ#] [戻る] |