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終焉の時はなく
mission1



25.mission



 果敢に攻めてくるパワードスーツ群をなぎ払いながら戦場を巡るセレスでは、早乙女からの作戦変更指令を受けて思案していた。
「――とどのつまりは、お家騒動的な展開というわけか」
 セレス艦隊提督ウィル・バーグマン准将はいささか呆れる。
「クロイツのフェニックス艦隊への干渉には一切関知しないと言っておきながら。クロイツの旗色が悪くなった途端に討伐に乗り出してくるとは……。なかなかの策士といえますね」
 副官であるジェフは苦笑して応える。
「普通、そういう行為は裏切りと言うのだよ」
「どうします?こういう時は確かにどちらについても分が悪い。展開が予想できないだけに、権力争いには、あまり関わりたくはありませんね」
「クロイツの出方が問題だな。我々が手を引いてもなお攻撃を仕掛けてくるようでは……」
「そこは、戦闘部隊の将校がクロイツ軍全体に指令を流しているようです。撤退して行きますよ……ほら」
 ジェフはスクリーンパネルに映し出される、離散して行くローダーたちを視線の先に示した。
「李少佐か……。早乙女大尉とどういうつながりがあるのか。不思議だな」
「フェニックスに確認しますか?」
「いや、いい。フェニックスの部隊は副長の指令に従うだろう」
「一時、退いてみますか?」
「杉崎は?」
「杉崎艦長はフェニックス海兵隊とともに要塞へ潜入したようです」
 オペレーターのひとりが応える。
「う……ん。そこの作戦は続行というわけか」
 ウィルは思案した。
 外を守り切るのが艦隊の役割だったが、状況の変化は予想外すぎる展開をみせているため、これ以上の関わりはかえって危険だ。お家騒動は傍観するに越したことは無いと判断した。
「全艦隊に発令。我が軍はこれよりシヴァ軌道上まで後退し、戦闘体制のまま待機とする。クロイツとへルヴェルトには関与するな」
 渋々指令するウィルに対し、ジェフは彼の胸中を察していた。
「哨戒艦艦隊が納得するでしょうかね」
「彼等の説得は君に任せるよ」
 ウィルは嫌な役割を承知で、ジェフの手腕に甘えた。
「やってみましょう……」
 ジェフはウィルの心情を知ってクスクス笑いながら、全艦隊に後退命令を下した。
 しかしながら、フェニックス海兵隊が撤退する前に、万が一にでも要塞がヘルヴェルト軍に制圧された場合はどうするのか。ふたりはそれが気掛かりだった。
「うまくやってくれればいいんだが……」
 ウィルは杉崎の身を案じていた。



 哨戒艦艦隊の支援にはいっていたフェニックス第二小隊は、帰艦命令を受けて野村の指示を待っていた。
 クロイツのパワードスーツ隊は早々に撤退を開始している。早乙女の指示に従ってもいいだろう。
 だが、そうなれば、要塞に潜入したはずの海兵隊を置き去りにする事になる。そんな事はしたくない。海兵隊だけに全てを任せるなど彼自身の感情が許さなかった。
(――だけど、個人的感情など、作戦遂行の妨げになるだけだ)
 野村は、自己の葛藤に動きを封じられていた。
 ポリシーで自身を戒めてはいても、どうしても失いたくないものがある。
 個人的感情が通用するような状況ではない事など、十分に判っている。しかし、いまここで感情を殺して、後悔するような結果になっては取りかえしがつかない。
 葛藤はやがて、決断に変わった。
「武田。これから、第二小隊はフェニックスに帰艦する。帰艦までの指揮はおまえがとれ。自分はこれから単独行動に出る」
「単独行動……って、どうするつもりですか?」
「フェニックスには、戦闘のドサクサで行方不明になったとでも報告しておけ。済まないが、頼んだぞ」
「いや!……待ってください。自分もお供します」
 野村の行動に不穏な何かを感じて武田は食い下がった。
「だめだ。エルフのエネルギーは限界が近い。どのみちフェニックスへの帰艦が必要だ。いつ、何が起こるかは分からないから、おまえたちはフェニックスで待機しておけ」
「小隊長……」
「頼む武田。……行かせてくれ」
 何が彼を駆り立てるのか武田には分からなかった。しかし、その想いの強さだけは伝わってくる。
 気になる理由も、多分彼は教えてはくれない。彼は野村の意志を受け入れるしかなかった。
「――分かりました。だけど、必ず還って来てください。待っていますから」
 野村の身を案じて一言だけ伝えると、彼は第二小隊を指揮して、フェニックスへと帰艦して行った。
「ありがとう、武田」
 伝わることのない感謝の言葉を呟いてから、野村は衛星要塞へ向かって飛び立った。


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