終焉の時はなく Back fire1 24.Back fire クロイツは衛星要塞の進路を変更し、衛星シヴァへ航路をとるHEAVEN艦隊を追跡していた。 最終決戦に向けた総帥ホフマンの決意が総力を結集させる。衛星要塞から全艦隊へ、ホフマンの声明が伝えられ、全ての兵が決戦へと意識を昂めていた。 勝利無くして、帰還はあり得ない。 兵たちはその意味をもう一度反芻し、それぞれの置かれた立場を実感していた。 「あんな所でも、一応は ホフマンの演説を聞きながらシェ―ラザットがつぶやく。 「あんなトコぉ?……いいトコじゃないのさ」 セシルが喉の奥で声を押し殺して笑う。 ドレッシングル―ムのモニタ―に映るホフマンの後方にハンナが控えている。それまでハンナの傍らに常に在った早乙女の姿が、今は無い。 「ホントにいなくなっちまったんだねえ……」 モニタ―を眺めながら、コニ―がしみじみとつぶやく。その寂しそうな口調が、メンバ―の注意を引き付けた。 「いつも控えめに、あそこに立っていたのに。もういないなんて、まだ信じられないよ」 「シンゴ?」 沈みがちに言うコニ―にスカ―レットが尋ねた。 「ああ。……あたしはあのこが気に入っていたよ。なんたって、うちのチ―ムから出た出世頭だからねえ……。あのこなら、軍の中のいろんな確執ってやつをさ、うまく中和させてくれそうだった。……期待していたんだよ」 コニ―が応えるとスカ―レットは唇の端に笑みを浮かべた。 「なんたって、可愛いボ―ヤだったからねぇ」 「そうそう。ブレンダの手前、手は出せなかったけど……」 コニ―はつい本音を漏らす。 「なに言わせんのよ!」 我に返ったコニ―は、スカ―レットに険悪な視線を向けた。 「あ〜あ。嫌だねぇ、お姉様方は邪で」 シェ―ラザットがセシルに向かって揶揄を向ける。 「仕方ないだろ、男切らした事無いんだから……。戦の最中は禁欲が辛いんだよ」 セシルもシェ―ラザットと同様に笑いをかみ殺す。 「レズジャリは黙ってな」 コニ―は不機嫌に吐き捨てた。 「あ……あたしはレズじゃねぇ!」 セシルが真っ赤になって否定すると、コニ―は一瞥して嘲笑を浮かべる。 「あ〜あ嫌だねぇ……。男も知らないで、手軽に女同士でチチくりあってんじゃないよ」 「――止めなよコニ―。大人気ない」 動揺するふたりに更に揺さぶりをかけるコニ―を、スカ―レットが制止に入った。 「なんだい。あんたもレズの味方かい?」 「だから、違うって言ってんだろ!」 コニーがスカーレットに向ける言葉にでさえセシルは敏感に反応する。 シェ―ラザットは我関せずといった態度を決め込む。 「ところで、ブレンダは?帰還してから会ってないけど」 低次元の話題を避け、話題を修正するスカ―レットの言葉に、シェ―ラザットは不機嫌な表情を浮かべた。 「ずっと、男のトコにいるよ」 セシルが応える。 「男?……そんなのいたっけ?」 「トーファーのトコ」 「ふ〜ん。ヘンドリックス曹長ね……。あの男も、やっと出番が回って来たというわけだ」 スカ―レットは苦笑しながらも、ブレンダの心がヘンドリックスによって支えられている事を知って安心した。 「いいねぇ、ブレンダは。……戦の最中でも男切らした事なくてさぁ」 コニ―がしみじみと羨望を口にする。メンバ―はすっかり呆れて、一斉にため息をついた。 衛星要塞の執務室に出頭を命じられたヘンドリックスは、ホフマン総帥直々に新たな任務を与えられた。 ハンナが開発した新型パワードスーツを駆り、フェニックスを沈める事。そしてその後の動向を指示され、ヘンドリックスは最早、後戻り出来ない大役に覚悟を決めなければならなかった。 「――貴公にはアドルフを与えよう。精鋭を招集して、あとは目的を果たせばいい」 作戦成功を確信するホフマンに、ヘンドリックスは無礼を承知で尋ねた。 「万が一、作戦が遂行出来なかった場合は……」 ヘンドリックスの懸念に、ホフマンは冷酷に応える。 「貴公が泥をかぶれ。わたしはまた後の機会を狙う」 ホフマンの意向を知ってヘンドリックスは沈黙した。 忠誠を示す時が来た。 そう思えばいい。 しかし、その胸中は穏やかではなかった。 「――悪い結果など考えるな」 ホフマンは硬い表情のヘンドリックスを見て失笑する。 「成功した暁には、貴公は表舞台に出るのだ。……今までよくやってくれた。そのせめてもの礼をしたい。ヘンドリックス少将」 総帥の言葉は、歓びよりも新なる緊張を呼び起こす。 総帥自身もまた、全てを懸けてこの挑戦に踏み切っている事が彼にも分かっていた。 「出来るな。……ヘンドリックス」 「勿論です。総帥」 見つめ会うふたりの決意によって、最後の戦いが動き出した。 [次へ#] [戻る] |