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終焉の時はなく
First contact6





 HEAVEN艦隊にとって戦況は決して好ましいものではなかった。
 数のうえでは互角に見えていたとしても、その機動性を中心とした戦力はパワードスーツを数多く有するクロイツが優勢だった。
 戦場から次々に消失する味方機の識別信号の数がその戦況を物語る。
 セレスのブリッヂで指揮をとるウィルは、現状維持さえ困難になって来ている状況下で、ひたすら本部からの輸送船団の到着を待ち続けていた。
 しかし、その一方では、新たな戦術に踏み切らねばならない時期を察していた。
「──艦載機群もこれ以上は無理か」
「そうですね……。いずれは、防衛戦は突破されるでしょう」
 傍らに控える副官のジェフは、ウィルの胸中を察する。
「セレスだけで、どこまでもたせる事が出来るかな……」
「どこまででも、お供します……。提督」
 決意の笑顔でジェフは応えた。
 そのとき、ふたりの会話を傍受していた哨戒艦遮那王の一条が、通信回線に割り込んで来た。
「あほぬかせ!ジブンらがフェニックス護らんでどないすんのや!」
 ヘッドセットに響く突然の罵声でウィルが固まった。
「艦長。お言葉が……」
 戦場での指揮官同士のやり取りにはふさわしくない物言いは、武蔵坊を失望させる。一条は、興奮するとつい口をついて出てくる言葉を改めた。
「先鋒は我々哨戒艦に任せろ。セレスは補給を待て。……それから発動しても遅くはない。功を焦るな」
「ハヤト……」
 らしからぬ一条の言葉にウィルは苦笑を誘われる。
「そうだな……。味方に頼れる者がいる事を忘れていた」
 HEAVEN防衛軍は、その空域の監視と警戒に最大の力を注いでいた。
 哨戒艦艦隊は、盾と鉾の両方の役割を担ってHEAVEN空域を護ってきた。
「わかった。先鋒を遮那王に任せよう。我々は新戦力の投入に携わる」
 ウィルの委任で一条の士気が高まる。
 セレスは再び、フェニックスの前衛として防衛に徹した。
「哨戒艦艦隊前進。射程距離に入り次第砲撃を開始する」
 水を得た魚のように生き生きとして、一条は艦隊へ発令する。
「戦闘機隊は射線上から退避。艦隊は弾幕を張りつつ敵艦隊へ接近する。パワードスーツを近づけるな。……ええか、これが決戦にはならん。まだこっからや。被害は最小限にくい止めなあかんで!」
 いつもの特攻精神が伴わない一条の指揮に、武蔵坊はフェニックスを守るための決意を知る。
「随分手堅いですね。安心しました」
「俺は三度のメシより戦が好きなんや……。最後に勝つから戦はおもろいねん」
 もっともらしい持論に武蔵坊は同感して笑った。
「それより、早かったな……。もっと楽しんでくる思っとったで」
 自ら志願して戦場に赴いた武蔵坊が予想より早く帰艦した。一条は疑 問を向ける。
「わたしもそのつもりだったのですが、戦場で拾い物をしまして……」
 武蔵坊はいつになく機嫌がいい。
 その理由がそこにあるのか……。と、一条は察した。
 この男が戦より好きなものといえば一体何だろう。
 しばらく考えながら武蔵坊の笑顔を見ていた一条だったが、やがてひとつの結論に行き着いた。
「──女……か?」
 一条らしい問いに、武蔵坊は失笑した。
「紅蓮の炎の中に咲いた艶やかな花一輪……。つい欲しくなりましてね」
 武蔵坊の満足そうな表情に、一条は懸念する。
「まさか……敵の女、拉致ってきたんか?」
「違いますよ」
 武蔵坊がクスクス笑って否定する。
 一条は少しだけ安堵した。
「味方の少年です」
 武蔵坊の微笑みが、ふたたび一条を茫然とさせた。
「弁慶……。おまえもか?」
 一条の指摘するところは、武蔵坊にもよく解る。
 男社会にありがちな短絡的な関係は、確かに自分も嫌ってはいたが、今回ばかりは話は別だった。
 美しいものには誰もが心魅かれるものだ。
 見ているだけで心が和む。それが悪いと誰が責められよう。
 武蔵坊はそう思う。
「そう詰めないで下さい。采配は艦長がご自由になさって結構ですから。自分は一切口出ししません」
「それは、有り難いが……」
 いつも口うるさく監視する者が黙ってくれるのは助かるが、それとこれとは話は別だ。
 一条はそう思いながら、怪訝そうに武蔵坊を見た。
「自分は医務室で花を愛でていますので、後は艦長にお任せします」
 武蔵坊は戦術からあっさりと手を引いて一条に全権を委ねた。
 いつも絶対に自分を野放しになどしてくれない武蔵坊の言葉に一条は驚いた。
 武蔵坊はそんな驚きにも関心を見せずにブリッヂを出て行こうとしている。
「おい!ホンマにええのんか?三度のメシより好きな戦の最中やで」
「はい。そのお楽しみは艦長にお譲りします」
 今の一条なら、決して無理はしない。
 そんな安心感を抱いて、武蔵坊はにっこりと微笑み返してからブリッヂを退出していった。
 戦場を一巡して視察して来た武蔵坊にとって、戦況は急を要する状況ではなかった。
 独自の戦略で果敢に攻める艦載機群が、ローダーと互角に渡り合う姿を目撃し、少数精鋭でも十分もたせられると判断していた。
 一条はそんな武蔵坊の広い背中を茫然と見送った。
──よもやあいつまで衆道に踏み入るとは……
 なんとも解せない状況に、肩の力が抜けてくる。
 しかしながら、自分自身の沢口に対して抱いている感情を思うと、武蔵坊のことをどうこう言える立場ではない事を自覚してしまう。
 それが少しだけ悔しくもあった。
 後で、その花とやらを拝んでやろう。
 一条はそう心に誓った。




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