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終焉の時はなく
Lies and Truth4





『ヘンドリックス隊長。神龍シェンロンだ。現在地点の確認をしたいのだが、通信トラブルのため、そちらの状況はこちらでは確認できない。現在自分は、艦中央のフライトデッキに向かっている。……杉崎は始末したから、あとはローダーで脱出する。そっちも動力部を破壊したらすぐに脱出してくれ。脱出が成功したら信号を上げる。……後でまた会おう』
 通信を受けたブレンダは、喜びを隠せないで思わず笑顔を見せた。
 共にフェニックスに着艦してから、ブレンダはずっと早乙女の身を案じていた。
「ヘンドリックス。シェンからの通信が入った。成功したからこれからローダーで脱出する……って」
 艦外で待機していたブレンダは、フェニックスに突入していたヘンドリックスに報告する。
「OK。こっちももう一息だ。肝心の動力炉が身持ちが堅くていけねぇや」
 フェニックス海兵隊と攻防戦を続けるヘンドリックスは、持参してきたロケットランチャーを構えた。狙いを定めながら、フェニックス海兵隊が持ち出してきた無反動砲を視認する。
 ヘンドリックスは思わず口笛を吹いた。
「あちらさんも血の気が多い……。ブレンダ、撤退だ。俺もこれを撃ち込んだらすぐに脱出する」
「分かった。気をつけて……」
 ブレンダはフェニックスから離脱して、ステルス性を維持するために機能を停止していたゲオルグのコックピットに搭乗した。
 それと同時にヘンドリックスが銃爪を引く。
 艦内は爆発によって破壊され、側舷にまで亀裂が生じた。



 早乙女を追ってフライトデッキへと向かう杉崎の前に橘が現れた。
 ブリッジに向かう通路をガイドグリップに導かれてやって来た橘は、杉崎の接近に気付いて縋るような視線を向ける。
 杉崎と接触してグリップを離した橘の身体は、崩れるように力を失った。
「どうしたんだ?」
 杉崎は、弾かれた橘の上体を支えた。
「沢口が……」
 杉崎の存在に安心した橘は、今にも泣き出しそうに応える。
「敵にさらわれて……」
 橘の報告に杉崎は慄然とした。
「ブリッヂに居たんじゃなかったのか?」
「それが……」
 橘は言葉を呑んだ。
 士官室まで迎えに行くと予想通り沢口が在室していた。
 非常態勢でありながら、ブリッヂへ出頭してこない理由を訊ねた橘に、沢口は泣き顔を向けて応えた。
 こんな顔では出るに出られなかった、と。
 杉崎と響姫の関係を知ってしまった。
 完全な失恋を知って沢口は失意の底にあった。
 そんな沢口の状態を、杉崎には何も伝えられなかった。
「まだ、部屋にいた沢口を迎えに行ったとき、敵に遭遇して……」
 艦内に潜入するためにヘンドリックス達が引き起こした爆破で、驚いて部屋を出たところに早乙女が通りかかった。
 銃を持つ橘は先制を打たれ戦闘不能に陥ったところで、丸腰の沢口が連れ去られた。
 橘は悔しそうにそう報告した。
「おまえは大丈夫なのか?」
 杉崎は橘を心配して尋ねた。
「大丈夫です。蹴りが脇に入っただけですから……」
 息苦しさをこらえながら苦笑してみせる橘に、杉崎は橘の気丈さを見た。
 多分、肋骨の2、3本は折れているだろうと推測する。
「自分より沢口をお願いします。艦長」
 また自分を置いて先に逝ってしまうのか。
 不意にわきあがるそんな思いを否定しながら、橘は不安だった。
「分かった。おまえはブリッヂで待機していろ」
 指示にうなずく橘を確認すると、橘と同じ思いを抱えて、杉崎はふたたびフライトデッキへと向かった。



 突然大規模な爆発音と振動が、フェニックスの艦体を揺るがした。
 艦内に警報が鳴り響く。
「やったな。ヘンドリックス」
 フライトデッキへ向かう途中の早乙女が作戦の成功を知った。
「今、艦長を始末した……って?」
 早乙女に銃口を突き付けられながら、人質として連行されてきた沢口が愕然として訊ねた。
「ああ。あっけないね……。恋人をかばって死んで行ったよ」
 早乙女の語る事実は沢口を失意の底へたたき落とした。
「嘘だ……」
 沢口は感情の大きな揺らぎに襲われた。
「おまえは……一体何のために還って来たんだ!仲間を裏切って、それで平気なのか!!」
 感情の爆発が早乙女に向けられる。
 自分に向けられる銃口も今は眼中になく、沢口は早乙女に掴みかかった。仲間を信じる気持ちが隙をみせる。
 早乙女はそれを制しながら迷わず銃爪を引いた。
 銃弾が、沢口の右の大腿を貫いて、沢口の身体は床に崩れ落ちた。
「――慎…吾?」
「まだ勘違いをしているようだが。自分はクロイツ将校、李神龍だ。……そんなに奴に似ていたかい?」
 冷ややかに注がれる視線に沢口は戦慄した。
 この男は敵だった。ならば、自分の命はこの李神龍と名乗る男の胸ひとつで決まる。杉崎を暗殺したと言うのも真実なのかもしれない。
――あのひとが……もういない
 そう考えて沢口は全身を弛緩させていった。
 いつも逢いたいと願っていた。
 焦がれ続けて、やっと再び逢うことが叶った。
 それなのにまた何も言えず、何も伝えられないうちにひとりで逝ってしまったのか。
 沢口の瞼から涙が零れ落ちた。
「なにを泣いている?」
 急に気力を失った沢口を訝しんで訊ねた。
「殺せよ。……どうせそのつもりなんだろう?」
「いや。まだまだ利用させてもらうよ。君に死なれては自分が危険になるからね」
「おまえを助けるための命なんてっ」
 早乙女は、再び抵抗する沢口の意外な反応に驚いた。
「立派な正義感だ。……クロイツで洗脳を受ければ、きっと優秀な兵になるだろう」
 嘲笑を向けて沢口の襟元を掴んで引き寄せる。
「おっと!舌なんて咬まないでくれよ」
 沢口の行動を予測して銃把を口腔にねじ込む。そして、歯を折られてもなお抵抗する沢口の背中を抑え込んで、みぞおちに膝を打ち込んだ。
 沢口の身体は早乙女の腕の中で力を失った。



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あきゅろす。
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