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終焉の時はなく
Survival6





 メディカルセンターを後にして、杉崎を訪ねて艦長室へと立ち寄った立川は、デスクに伏せて惚けている杉崎の姿を見つけて何事かと驚いた。
 野村から注意を促されて、早乙女の正体を報告しようとした矢先に、いったい何が起こったのかと不審に思う。
「どしたの杉はん?」
 杉崎は立川を一瞥しただけで、止めかけだった上着のファスナーを上げてから小さくため息をついた。
 その後少しの沈黙が続く。
 しかしそれは、杉崎の情けない声に破られた。
「立川」
 やっと口を開いた杉崎に対して立川は身を乗り出した。
「なに?」
「俺にはやっぱりおまえしかいない」
 杉崎はデスクにがっくりとうなだれる。
「何言ってんの。あんたにゃ肉体ぐるみでつきあってる男がいるでしょーに」
「どーして、そーゆー下卑た言い方するんだ?」
「沢口だっているじゃないの……。俺は身体まではあげらんないよ」
「いらん。頼まれたって手ェつけるか」
 立川は不毛な会話に疲れを感じてきた。
「だから一体どーしたっての?」
 立川の疑問は杉崎の視線を持ち上げさせたが、それはすぐに逸らされた。
 言いたくないのは立川にも良く分かるが、今はそんな事にかまっていられるほどの余裕はない。
「杉はん……」
「ふられた」
「は?」
「ふられたんだ」
「なにそれ?」
「だから何回も言わせんな」
 立川は呆れ顔のまま冷ややかに杉崎を見つめてため息をついた。
「同情してやりたいけどね。今はそんな状況じゃない」
「わかってる」
「早乙女……。ありゃ完全にニセ者だぞ」
 立川の指摘で杉崎はやっと視線を上げた。
「記憶はそのまま。クロイツ将校が何らかの目的で敵艦に潜入してきたってとこだな」
「奴が吐いたのか?」
「いや……いろいろと情報提供者がいるんでね。冷静でカンのいい連中が多くて助かる。ここへくる前にも西奈が発信源不明の信号について報告して来て……。奴は早乙女が敵のスパイじゃないかと言っていたぞ」
 そう言って立川はニヤリと笑った。
 失恋ごときで沈没している場合じゃない。と、その笑みは杉崎に訴えていた。
「敵の群れは近くにあるな」
 杉崎は立ち上がった。
「各パイロットはハンガーで待機。海兵隊は戦闘配備。全ての出入口を封鎖し敵の侵入を警戒」
 艦長室から出て行く杉崎を立川が追う。
「お前もメタルジャケットを着けて武装しておけ。スタンバイできたらメディカルセンターに来い」
「あんたはどうするんだ」
「俺は先にメディカルセンターへ行く。あそこのスタッフが心配だ」
「……って言ったって、あんた丸腰じゃないか」
 走り出す杉崎の背中に向かって立川が懸念を向ける。
「武装は奴を刺激する。まだ事を荒立てたくない」
 杉崎はそう返すと、そのままメディカルセンターへと去って行った。



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