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終焉の時はなく
Survival5





 先を急ぐ立川と早乙女の行く手が何者かに突然阻まれた。
 通路の角から姿を現したそれは、早乙女の胸に勢いよく抱き着いて。早乙女は反射的にそれを受け止めた。
「慎吾!良かった……無事で良かった」
 今にも嬉しさのあまり泣き出してしまいそうな表情で、早乙女を見つめる。
 立川はそれを見て唖然とした。
「野村?」
 自分を愛していると言った彼が、なぜ早乙女に対して深い情を寄せるのか。
 野村は、立川の驚きを置いたまま、早乙女に絡み付く。
「野村?」
 立川の呟きから彼の名を知る。
「嫌だ……。タカって呼んでよ」
 野村は傍から見ている立川が赤面するほどのモーションで迫る。
「ずっと待っていた。信じていたよ。必ずまた逢えるって」
 早乙女は狼狽していた。まさか、更に恋人がいたなんて……と混乱する。
 しかし、少し気の強そうに見える綺麗な外見は響姫と共通していて、自分の好みがそんなタイプだったのかと妙に納得させられてしまう。
 野村は早乙女の動揺にかまうことなく、抱き着いたまま耳元を甘噛みする。
「愛してる。慎吾……」
 そんな風に誘われて、思いがけず背中がざわめく。
「待って。タカ」
 それまで野村に翻弄されていた早乙女は、やっとの事で野村のアプローチを止めた。
 あまり深く関わって、ここで失態を見せてしまっては全てが水の泡となる。
「今は、まだしなければならない事があるから……」
「うん」
 いつもの野村からは想像できない柔順で無垢な微笑みが早乙女に返された。立川はさらに混乱する。
「また、後で……」
 早乙女は野村の頬に軽くキスを返して、立川を促してふたたびメディカルセンターへ向かって行った。
 離れて行く早乙女は野村が気掛かりで後ろを振り返る。野村は、そんな早乙女に艶然と微笑み返した。
 立川もまた解せない表情で野村を振り返る。
 すると野村は意味深な笑みを返すと、舌を出して立川にサインを送った。
 立川は一瞬意味が分からず唖然としたままだったが、すぐに野村の舌の上にあるピアスに気づいて、野村の行動を理解した。
(そいつは、慎吾じゃない。気をつけろよ)
 野村のサインは、立川にそう伝わった。
「さて……。こいつを、たっくんに見てもらおう」
 システム管理主任、城卓也。
 彼は皆に愛され、仲間からは「たっくん」と呼ばれていた。
 野村はアクセサリーとしては明らかに大きすぎるピアスを城に託した。



「――待たせたな」
 メディカルセンターへ到着した響姫は、早速先に到着していた早乙女の検査準備にとりかかった。
「採血は済んだのか?」
「はい」
 早乙女は硬い表情のまま響姫の顔色を伺っている。
 そんな早乙女の臆病な様を鼻先で笑うと、響姫は治療室へと誘導した。
 ゆったりとしたカウチと種々のモニターが装備されている室内は、間接照明や最低限の落ち着いたファニチャーでリラックスを促し、不安定な心の治療を目的としている。
 早乙女は促されるままカウチに横になり、響姫は早乙女にモニターの端子を装着していった。
 端子の装着と、モニターの調整を済ませた響姫は、治療室の入り口で成り行きを見守っていた立川に退室を促した。
「後は俺だけで大丈夫だから……」
 そう言う響姫を見て立川は考え込む。
(本当に、れんのかよ……)
 響姫が作業を進めるなか、立川は彼の上着の隆起から銃の携帯を察していた。だが、いざという時、早乙女に向かって銃爪を引けるのか。立川は疑問を抱いていた。
 しかし、例えどんな状態であろうとも、早乙女は響姫に対して危害を加えるような事はしないだろう。
 立川はそう信じた。
「終わったらコールしてくれ」
 そう言い残して立川は治療室を後にした。
 立川を見送ってから響姫はふたたび早乙女と向き合った。
「先生……」
 作業を再開しようとした響姫の手が早乙女に抑制された。
 突然の接触に動揺した響姫は、抗いきれないまま早乙女の手中に落ちていった。



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