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終焉の時はなく
Survival4





 早乙女の後ろ姿を見送っていた響姫は、見慣れたユニフォームにその視界を遮られて目前の障害物を見上げた。
 響姫の眉が不愉快な感情に歪む。
「そう不機嫌な表情かおをするな」
 困惑しきった杉崎が、響姫に訴える。
「あんたには関係ない」
 仏頂面を決め込む響姫には取り付く島も無い。
 杉崎は居心地が悪そうに苦笑した。
「先生に頼みたい事がある」
「何でしょう艦長」
 自分の気持ちを全くないがしろにしておいて、勝手に事をすすめる男たちに響姫は憤りを感じていた。
 早乙女にしろ杉崎にしろ、自分を蚊帳の外にしてなにを企んでいるのかと疑わしい。
 刺のある態度が杉崎を困らせたが、それでも杉崎には遂行しなければならない務めと立場があった。
「奴の頭がまともかどうかスクリーニングしてほしい。もし、記憶が戻っていなかったら……」
「記憶を戻せと?」
 響姫が杉崎の意向を容易に予測する。
 瞬時に訪れた沈黙の中で視線が交錯し情が絡む。
 杉崎は、響姫と視線を合わせられなくなって目を逸らした。
「そうだ。あれはフェニックスの副長だ。還って来て欲しい」
「そして、寄りを戻せってか?」
 響姫の指摘で杉崎の言葉が詰まった。
 しかし、艦長である杉崎はその役割を遂行する。
 自分の懐から短銃を取り出し、無言で響姫の腰のベルトに差し入れた。
 そんな予想外の行動に、響姫は脈絡が掴めなくて戸惑う。
「な……に?」
「自分の身は自分で守れ。何が起こるか分からん」
「銃なんて使ったことない」
「扱い方ぐらいは知っているだろう?」
 淡々と指示する杉崎の様は、響姫を悩ませる。
「あんたの思考はまとまりが無さすぎる」
「脚を狙うんだぞ。下手に急所に当たって殺してはまずいからな」
 副長の帰艦を願い響姫の望みを叶えようとする艦長杉崎と、響姫に対する杉崎個人の想いが対極にありすぎて、本心がどこにあるのか惑わされる。
 ふたつに分かれた心が、きっと杉崎自身を迷わせているに違いない。
 響姫は、杉崎の葛藤を察した。
「欲求がごっちゃになって、八方塞がりなんだろう?」
 突き立てた響姫の結論は、まさに今の杉崎の状態を的確に言い当てていた。
「はっきり言えよ。俺が欲しいって」
 杉崎を見据える瞳は、最後の強い意志を伝える。
 これが最後のアプローチだと、響姫は賭けた。
 しかし、杉崎の態度はふたたび硬化して、なにも返せず、ただ困惑したまま無言で響姫を見つめるだけだった。
「こ……の、根性なし!」
 響姫は業を煮やして決意した。
 突然の罵倒に驚いて、杉崎はやはり何も返せないままだ。
「――あんたそれでも男かよ!てめえの欲しいものも手に入れられないで、そんなんで人生楽しいのか!オスはいつだって、命懸けでいろんなもん守っていくもんだろーがっっ!」
 突然の説教に返す言葉も無い。
「わかった。……わかったよ。寄りを戻しゃあいいんだろ?あんたとの事はきれいさっぱり清算して、俺はあいつを取り戻してやる!」
 開き直った響姫は言いたい事だけ言い切ると、高ぶった感情のままメディカルセンターへと向かった。
「あ……洸……」
 思わず引き留めようとした杉崎に、振り返った響姫は最後の罵声を浴びせた。
「気安く名前呼ぶんじゃねぇっ!馬鹿野郎!」
 白衣をひるがえして大股で去って行く響姫を見送りながら、杉崎は茫然としていた。
 他人からこうまで面と向かって罵倒され、頭ごなしに削り降ろされたのは生まれて初めてだった。
 響姫の性格が実は男性的で直情型なのは知っていたが、いつも儚げであえかだった風情がここまで豹変するとは思いも寄らなかった。
「――なんて……男らしい」
 傷を負った胸を押さえて、杉崎はがっくりと落胆した。



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