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終焉の時はなく
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17.lovein



 フェニックスへ帰艦してから食事を済ませて、自室に戻るために通路を歩いていた静香は、休憩室の前を過ぎた1ブロックほど先から、立川の切羽詰まった声がする事に気づいた。
 静香は、声が聞こえた手前で立ち止まり、そっと通路の角から先を窺った。

「放して下さい!」
 腕を捕らえられた野村が逃れようとするが、立川は放そうとはしなかった。
「どうして逃げるんだ?」
「こんな気持ちを知られて、平然とあなたの前にいられるわけがないでしょう!」
 辛そうに訴える野村の姿に立川の胸が痛む。
 沢口の気持ちに気付かない杉崎を責められる立場ではなかった事に、自責の念が募る。
「すまない……。気づかなくて」
 予想外の立川の態度に野村は戸惑う。
「おまえに、そんな辛い思いをさせていたなんて……」
「どうして?」
 野村は疑問を抱いて立川を見据えた。
「同情なら結構です。どうせあなたには愛しているひとがいるんだし。僕の一方的な感情なんですから、謝らないでください」
 掴まれていた腕を引いて立川の手から逃れた。涙を拭った赤い目元が意地を見せて、寄り添う情を拒絶する。
「同情だなんて、そんなつもりは……」
 在りもしない腹を探られて立川は困惑した。
「だってそうでしょう。あなたには、そんな気は全く無いんでしょうから」
「けれど、俺の前から逃げなくても……。俺にとっておまえは、大切なやつだから」
 自分の気持ちをどうやって伝えていいのか迷いながら、つたなく言葉を綴る立川に、野村は苦笑した。
「立川さん。僕があなたのことを好きだって意味が、本当に解ってますか?」
 野村は立川に真実を突きつける。もう、逃げも隠れも出来ないと悟っていた。
「僕の感情は、あなたのそれとは違う」
 野村に迫られて、立川の身体が壁に追い詰められた。
「解っているつもりだが」
「本当に?」
 野村の腕が、立川の背を支える壁に添えられ、立川の両足を割って野村の膝が割り込む。ふたりの距離は30センチと離れていない。
「あなたの事を想って、眠れない夜もありましたよ……」
 爆発しそうな動悸を抱えながら、それでももう後には引けなかった。
 声も出せずにいる立川を壁際に追い詰めて、そっと唇を寄せた。鼻先が触れ合う程に近付いても、立川はただ驚きと戸惑いを綯い交ぜにしたような顔を見せるだけで抵抗しない。
 野村は爆発しそうな動悸を抱えたまま、言葉を失った唇をキスで塞いだ。
 ふたりの様子を窺っていた静香も、声も出せずにその成り行きを見守っていた。
(──て……抵抗ぐらいしなさいよっ!)
 黙ってされるがままになっている立川を見て、歯痒さを覚える。
 やがて、静香から見えている立川の横顔が、野村のキスに反応してうっすらと赤く染ってきた。
(感じてんじゃないわよっ!!)
 静香は愕然として心の中で叫ぶ。
 当たって砕けるつもりでキスを堪能した野村は、意外にも怒り出さない立川をさらに挑発した。
「嫌じゃないんですか?ちゃんと抵抗してくれないと付け上がりますよ」
 野村はさらに脚を割り入れて、立川の敏感な部分を大腿で擦り上げた。
 しかし、予想外の反応に気付いて驚く。
「ど……して?立川さん、ストレートじゃ……」
 野村は茫然とさせられて、当然の疑問を口にした。
 立川は否応なく動揺する。
「──いや!その……。おまえ、キス上手すぎ」
 恐れさえ見せて非常にばつが悪そうに応える立川の様子に、野村の緊張が一気に緩んだ。
「なんだ……。そうだったんだ」
 野村は艶然と微笑みを返した。
「いや!そうじゃなかったんだ」
 赤面しながら弁解する立川だったが、否定にはなっていない。
(敬って……ストレートじゃなかったのぉっっ!)
 静香は愕然としていた。開いた口が塞がらない。
「良かった。嫌いじゃないんだ」
 野村は蠱惑的な視線を立川に向けて、安堵のため息をついた。
 決して受け入れる事なく、自分から遠ざかって行ってしまうだろうと思っていた。自分の気持ちを知っても排除しようとせず、大切に思ってくれる立川の気持ちが嬉しい。
「立川さん」
 野村は立川を抱き締めて、囁きで耳元をくすぐる。
 立川の背中に理解できないざわめきが走って、力が抜けていく。
「──ゃめ〜〜」
「これからは遠慮無くあなたを口説けますね……。嬉しい」
「遠慮しろ〜〜……っ」
 決して不快ではない野村のキスは魔性の力で立川を支配する。
 抵抗したいのに、抗いきれない立川の声すら力が入らない。
(ええいっっ!流されるんじゃないっっ!!)
 全身が総毛立つような勢いで怒る静香。
 そこへ、呑気に通路を歩いてきた葵が現れて静香に声をかけた。
「先輩。こんなとこで何してるんですかぁ?」
 相変わらずお気楽な葵は、静香が覗いていた先を横から同様に覗きこんだ。
「あ、あぁっっ!葵っっ!!」
 あわてて葵を止めようとしたが、葵は男ふたりのラブシーンを目撃してしまった。


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あきゅろす。
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