Novel 4 「ミステリーに興味を持ってもらえるのは凄く嬉しいんですけど、よくこんな朝早くに来られましたね」 水屋はこの年齢の男には珍しいほど、丁寧な言葉遣いをする。 和宏と同い年とは思えない。 「一限目、うちの学部は何もないはずだと思いましたが・・。 学校の近くにお住まいで?」 「いえ、そんなほどでも・・O駅の近くです」 学校から近くも無いが、遠くも無い位置だ。 「そうですか・・じゃあご実家かな?」 「いえ、一人暮らしです」 「あぁ、僕と一緒ですね。 一人暮らしだと、料理が大変ですよね。 夕飯なんて、もう何でもいいいやと投げやりな気持ちになります。 昨日なんて、カップラーメンですませましたし・・昨夜は何食べました?」 「え・・パエリアです」 「パエリア! 料理がお好きなんでしょうね」 「いえ、あまり好きではないです・・」 昨日は和宏が来るからと頑張ったのだ。 結局、大して味わう前にあんなことになってしまったが。 「そうですか・・まぁそんな事はいいですね。 今日来てくれたことが嬉しいです」 と言って、さぞ嬉しそうに笑った。 ミス研は、もしかしたら部員不足に泣いているのかもしれない。 しかし生憎、部員になる気はさらさらない。 「ちょっとお勧めの本が知りたくて・・」 「お勧めですか? そうですね・・やっぱりアガサ・クリスティはいいですよ。 あ、もうよみました?」 「いいえ・・あの、死体を上手く隠すトリックのものが読みたいんです」 水屋はキョトンとした表情で私を見つめた。 直接的すぎたかな・・。 「ミステリーに興味を持ちはじめで、その着眼点は凄いですよ井上さん!」 褒められた。 「推理小説ってね、死体を隠すのはあまり重要視されない傾向があるんですよ。 死体が見つからなくちゃ、事件が発覚しませんから」 そういわれればそうだ・・。 「でも実際の犯人が、一番頭を悩ますのは死体の隠し方ですよきっと」 水屋にそんなつもりは無いのだろうが、私は思わずビックリした。 ・・心臓に悪い。 「その点をなおざりにしてはいけないと、僕も常々思ってたんです」 外見的にはクールそうに見える割に、水屋は随分と口数の多い男だった。 「じゃあ、いい隠し方をしている作品は・・」 「うーん、ちょっとすぐには思いつきません」 がっくりだ・・期待したのに。 [*前へ][次へ#] [戻る] |