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Novel



「ミステリーに興味を持ってもらえるのは凄く嬉しいんですけど、よくこんな朝早くに来られましたね」

水屋はこの年齢の男には珍しいほど、丁寧な言葉遣いをする。
和宏と同い年とは思えない。

「一限目、うちの学部は何もないはずだと思いましたが・・。
学校の近くにお住まいで?」

「いえ、そんなほどでも・・O駅の近くです」

学校から近くも無いが、遠くも無い位置だ。

「そうですか・・じゃあご実家かな?」

「いえ、一人暮らしです」

「あぁ、僕と一緒ですね。
一人暮らしだと、料理が大変ですよね。
夕飯なんて、もう何でもいいいやと投げやりな気持ちになります。
昨日なんて、カップラーメンですませましたし・・昨夜は何食べました?」

「え・・パエリアです」

「パエリア!
料理がお好きなんでしょうね」

「いえ、あまり好きではないです・・」

昨日は和宏が来るからと頑張ったのだ。
結局、大して味わう前にあんなことになってしまったが。

「そうですか・・まぁそんな事はいいですね。
今日来てくれたことが嬉しいです」

と言って、さぞ嬉しそうに笑った。
ミス研は、もしかしたら部員不足に泣いているのかもしれない。
しかし生憎、部員になる気はさらさらない。

「ちょっとお勧めの本が知りたくて・・」

「お勧めですか?
そうですね・・やっぱりアガサ・クリスティはいいですよ。
あ、もうよみました?」

「いいえ・・あの、死体を上手く隠すトリックのものが読みたいんです」

水屋はキョトンとした表情で私を見つめた。
直接的すぎたかな・・。

「ミステリーに興味を持ちはじめで、その着眼点は凄いですよ井上さん!」

褒められた。

「推理小説ってね、死体を隠すのはあまり重要視されない傾向があるんですよ。
死体が見つからなくちゃ、事件が発覚しませんから」

そういわれればそうだ・・。

「でも実際の犯人が、一番頭を悩ますのは死体の隠し方ですよきっと」

水屋にそんなつもりは無いのだろうが、私は思わずビックリした。
・・心臓に悪い。

「その点をなおざりにしてはいけないと、僕も常々思ってたんです」

外見的にはクールそうに見える割に、水屋は随分と口数の多い男だった。

「じゃあ、いい隠し方をしている作品は・・」

「うーん、ちょっとすぐには思いつきません」

がっくりだ・・期待したのに。


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