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Novel
10
「あんまり腐っちまってたもんだからちょっと難儀しましだがね。
解剖の結果、死亡推定時刻は失踪した日の昼頃と断定されました」

と言うことは、神隠しのように姿を消して殺されるまでにタイムラグがないようだ。

「は・・、犯人は分かってるのですか?」

咲子が言う。

「残念ながら。
只今調査中です。
ただ結婚式場からの失踪の後だというだけに、まるで彼女を知らない外部犯の犯行ではないだろうと思っとります」

「な、何ですか。
それは私達の中に犯人がいるとでも・・!?」

薫が立ち上がった。
拳を震わせている。

「そんな訳じゃありません。
大体皆さんアリバイがおありになるでしょ?
ずっと結婚式場にいたんだから。
私が言いたいのはですね。
なにかしらの形で美散さんの顔見知りが犯人だろうというだけの事ですよ」

「まぁ、そうですわね・・」

何事もなかったかのように、薫は腰を下ろした。

「美散さんの身辺を今一度洗いなおしてみますけどね・・。
本当にこの事件に関して思い当たることはないですか?」

「ないです。
何度訊いても同じだ」

草一がやや憮然な態度で轟に返した。

「ところで、今日は三木さんは?」

轟の説明が一段録したところで、私が尋ねた。

「今日は連絡をしてなかったものですから。
恐らく今は大学にいらっしゃるんじゃないでしょうか」

「三木さんは、大学生なのですか?」

「ええ、今年で大学三年生のはずです」

なんと。
どうりで若いと思った。
大学三年生で結婚とは・・随分と気の早い話じゃないか。

「お宅にいらっしゃるかどうか、電話をしてみましょうか」

咲子が立ちあがったのを、轟が制す。

「いや、直接行ってみますよ。
おられなければ帰ってくるまで待ちます。
婚約者の三木さんには一刻も早くお伝えせにゃならんと思いますから」

轟が立ち上がり、私にも立つように促した。
今から早速三木謙斗の家に行く気な様だ。

「三木くん、きっと悲しむだろうな」

草一がポツリと言った。

「そうですね、私も一緒にいてあげたいですが・・。
生憎、今からお医者様をお迎えしなくちゃなりませんので」

「医者ですか・・お婆さんの?」

私の問いに、薫が肯定を示すようにうなずいた。

「はい、母の体調がすぐれないものですから、事件以来ちょくちょく母の主治医の方にお出でになってもらっています。
一昨日も来て頂いたばかりです」

「そうですか、お大事にとお伝えください」

薫は再びうなずいてみせた。



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