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Novel

 連日の雨で、あれほど咲き誇っていた花々はすっかり萎れていた。
きれいに咲いていたころにもっとよく観賞したかったものだ。

「アレ、探偵さん?」

我々が門から入ろうとした時、ちょうど三女の蕾がやってきた。
ちょうど下校の時だったのだろうか、ピカピカの制服を着ている。

「蕾ちゃん、だっけ」

「覚えていてくれたんですか探偵さん。
嬉しいな」

探偵さんといわれるたびに私の心が痛んだ。
やっぱり嘘はよくない。

「珍しい名前だから。
そう言えば姉妹皆、花を連想させる名前だったね」

上から咲子、美散、蕾。

「お姉さんのことだけど、あんまり散るって言う字は名前には使わないよね」

「散る時まで美しく、っていう意味を込めたってお父さん言ってました」

「そうなんだ」

皮肉にも、あんな最期を遂げてしまったが。

「中に入るんですか?
今日も捜査?」

「えと・・例の怖い顔した刑事さんがね、ご両親に話があるって。
もう中に入ってると思うんだけど・・」

「そうですか。
じゃあどうぞ」

蕾に促され、私は門をくぐり、母屋へ向かった。

「ところで蕾ちゃん。
お姉さんが失踪した日のことだけど・・」

「ゴメンナサイ。
私あの日のことよく覚えてないんです」

先手を打たれてしまった。

「あんな事があった日だから無理は無いよ。
ちょっとでいいんだ。
少しでも覚えてること無いかな?」

両親や姉よりこの幼い娘の言うことのほうが信じられそうな気もする。

「お姉ちゃんが着物着てた様子は覚えてる。
真っ白で、キラキラしてて、本当にキレイだった・・。
お化粧もばっちりでした」

何も覚えてないという割にはよく喋る。
それほど、この年頃の少女にとって花嫁衣裳とは特別なのだろう。
私としては、腐乱死体の着ていた服としか思われなくて、なんとも忌まわしいものように感じていた。

蕾と一緒に母屋へ向かうと、入り口に轟が立っていた。

「よぉ。やっと来たか」

私達三人は中へ入った。
前回と同じ座敷に花王寺の面々が集まっている。
前回と違うのは、その顔ぶれに三木謙斗の姿がないことだ。
祖母香苗は相変わらず体調が芳しくないらしい。

「こんにちは。
失礼しますよ、花王寺さん」

轟が言い、私達二人は座敷の中央に腰を下ろした。
蕾はと言うと、家族にただいまと言って部屋を出る。
恐らく鞄を置いてくるのだろう。
まだ幼い彼女に姉の悲惨なさまを話すのは心苦しいのでよかったと思う。

「今日わざわざ来たのは他でもない。
捜査の状況をお伝えするためです」

「美散、美散は・・」

草一が震えるように声を出した。

「単刀直入に言いましょう。
娘さんは亡くなられていました。
今朝隣県の山道で腐敗した遺体が発見されました」

美散の死を知った面々は、思ったよりは驚く様子も無く事実を受け止めた。
予想した事態だったのかもしれない。



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