Novel 9 「ま、そっちは追々調べておきますよ。 だから心配せずお帰りください」 ついにこの一言を言われてしまった・・・。 「そんな、あと少し・・」 「推理ならお宅ででも出来るでしょう? 何か閃いたら連絡でもください。 連絡先は渡しておきますよ」 轟は一枚名刺を取り出し、差し出した。 捜査一課 轟 慧・・その後に電話番号とメールアドレスが書かれている。 「あきらと読むんです。 二文字の名前・・珍しいでしょう? 中国人みたいだ」 そんなことはどうでも良い。 「あの、私の万年筆は・・」 少しでもこの場に留まる理由がほしい。 「関係ないと分かっても、ちょっとまだお返しできません。 後日連絡しますので、そちらの連絡先もお聞かせ願えますかね」 「それは構いませんが・・。 いつ頃返してもらえますか?」 私は手帳に電話番号だけ書いて、破りとったそれを轟に渡した。 「さぁ・・捜査の進みかたしだいでしょう」 要は、事件が解決するまで返せないということらしい。 「死体の握ってた万年筆ですからね。 返されても困るんじゃないですか?」 「まぁそうですけど・・・両親から貰った大切な品なので。 少しでも早くお返し願いたいんですけど。」 「それは約束出来ません。 恨まんでくださいよ、仕事なんです。 恨むならガイシャを恨んでください。 死ぬ時にそいつを握ってたのはガイシャですから」 なんという不良な刑事だろう! 私はあきれた。 確かに、貝塚が握って死ぬなんて真似しなければこんなことにはならなかったのであろうが・・。 そもそも貝塚が私の万年筆を拾わなければ・・。 そうなると私が万年筆を落とさなければ・・。 あぁもう! 刑事の言葉に従うわけではないが、被害者を恨まずにはやってられない。 本当になんで私の万年筆なんだ。 どうして私のなんだ。 周りに腐るほど筆記用具はあったし、原稿書くのに使ってたわけでもなかったろうに。 どうして、私の万年筆を・・。 その瞬間、私の中で一種の閃きが生まれた。 [*前へ][次へ#] [戻る] |