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Novel

 しばらく車を走らせると、車は目的地へと到着した。
普段は閑静な住宅街なのだろうが、今は大勢の人でごった返している。
警察、鑑識、報道関係者、はたまた地域の野次馬連中・・。
とても車で近寄れないがどうするのかと思ったが、轟は近くにいた警察の一人に車を託してさっさと降りてしまった。

「ホラ、あんたも」

乞われて急いで車を降りた。
轟は人の山の間も苦も無くズンズンと進んでいく。
やはり屈強そうなあの身体は伊達じゃないらしい。
私は轟から離れないよう、ピッタリくっついて進んだ。
人垣を抜け、黄色のテープをくぐり、私達は家の中へと入った。

 家はなんともこじんまりとした造りであった。
著名な作家の住処にしてか、いささか不釣合いな気もする。
中へ入ろうとその印象は変わらない。

「思ったより、小さなお家ですね」

「独り者だったから構わなかったんでしょう。
と言ってもこちらの家へは数年前に越してきたばかりだそうですがね」

部屋と呼べる部屋はせいぜい二部屋程度だった。
フローリングが敷かれている洋間と、畳の和室だ。
貝塚氏は洋間の方を居間としていたらしい。
ソファやテレビが置かれている。
沢山の警官が出入りしてはいるが、何の変哲もない居間だ。

「ガイシャは、奥の和室で見つかりました」

和室の方は、一見して書斎のようだったが、襖に布団が入っているところを見ると、寝起きもここでしていたらしい。
基本の生活スペースがここにあったようだ。
隅の机の周りは様々な筆記用具や、原稿用紙が散乱している。
ひどく散らかっているのは元からなのか争った形跡なのか。

「ここにガイシャの死体があったんですな。
3日の朝に家政婦が発見しました」

轟は机の辺りの床を指差した。
死体の跡をしめす白線がひかれている。

「で、ここ。
ここに腕がきて、万年筆を握っていた」

私は轟に示された部分を観察した。
丁度原稿用紙の上に当たる。
原稿用紙には既に文章が書かれているが、それを無視するように一本の線が大きくひかれていた。


筆跡はひどく震えているが、漢字の乙に読めないことも無い。
いや、数字の2だろうか。
それともアルファベットのZ・・・?

「これが、その万年筆です」

轟が私に袋を差し出した。
いや、袋に入った一本の万年筆を。

「確かにあんたのものですかい?」

よく観察してみる。
私のイニシャルのM・Mがしっかり刻まれている。
しかも、私が落として付けた傷もある。
間違いなく私の万年筆だ。


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あきゅろす。
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