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保護者はどちら?

星乙女。

それが私の名であり、私を示す唯一の言葉。

敬愛する我が主、クォルファ・リヴェンツェルの武器である鞭だった私は、いつの間にか人の姿になる事が出来るようになっていた。

鞭と人、どちらの姿でもいられるのだが、最近は人の姿でいる方が圧倒的に多い。

何故ならその方が直に主に触れ、且つ言葉を交わす事が出来るから。ただそれだけの事。だが、それだけの事が、私にとってはとても大事だったりする。


それもそのはず。我が主は、正直目が離せない。

言わなければ平気で朝ご飯を抜く。

無茶な事をして怪我をする。

そんな事は日常茶飯事。だがまあそれだけなら百歩譲ってまだいい。

一番問題なのは、ある点において超がつくほど鈍感な事だ。

そのルックスの影響で異性は勿論、同性からも言い寄られる事が度々ある。しかも隙あらば襲おうとする輩までいる。

そして主自身、周囲からそんな目で見られているとは露ほども思っていないらしく、自衛など全く考えていない為に勿論隙だらけ。結果として、放っておけばいつ襲われてもおかしくない状況。

いつしか、私は主の貞操を守る用心棒と化している。

つまりあれだ。私と主は主従的関係にありながら、私は主の保護者でもあると言えるわけだ。
そんなわけで、今日も今日とて、主の危険を回避するべく、周囲に目を光らせていた。

ちなみに今朝から主に言い寄ってきた者が既に3人いたが、私の物言わぬ睨みの威圧と主の持ち前の超ド天然で華麗にスルーされた。


そんなある昼下がりの事。


今日は朝から少し調子が悪かった。

頭がくらくらし、微かに痛む。

いくら人の姿をしているとはいえ、鞭である私が体調不良など起こすものだろうか。というか、正直ありえないだろう、そんな事。

結局、体の不調は気のせいにする事にした。これは後から思えば間違いだったのかもしれない。



しばらくすると頭の痛みは格段に増し、目眩も酷くなっていた。

鞭が体調不良とか、本気で洒落にならない。

それでも、主に入らぬ気を使わせぬよう、必死で堪えて平静を装う。しかし、それもそろそろ限界だった。


「…っ……」


微かに息を詰め、ふらりと揺れる身体。

それは本当に微かなもので、よく見ないと分からない程度のものだった。

だが、


「……星乙女?」


我が主は、変なところで鋭いというか何というか。

私の些細な変化に気付いたらしい。


「どうした? 顔色が悪いぞ」

「いえ、問題ありません」

「そんなわけがないだろう」


呆れたようにそう言うと、クォルファは星乙女の額に手を置いた。


「っ……!」


瞬間的に星乙女の顔が朱に染まる。


「少し熱いな。顔もさっきよりも赤い。熱があるんじゃないのか?」


顔が赤いのは主のせいです、とはさすがに口が避けても言えない。


「一度ミリアルージュに診てもらった方がいいな。ほら、行くぞ」

「へ? あ、主……っ!?」


急に手を引かれて、星乙女は慌てた。主の貴重な時間を私なんかの為に割くわけにはいかない。何より、多少ふらつきはするが、そんな大げさなものではないのだ。


「待ってください。私は…」平気ですから、と言うはずの星乙女の言葉は、残念ながら最後まで言う事は出来なかった。


「お前に何かあれば、いざという時に俺が困る。いいから黙って付いて来い」


そんな事を言われてしまえば、星乙女には最早逆えない。





結局、いくら治癒魔術に特化したミリアルージュでもさすがに擬人化した鞭など今までに診た事がなく、はっきりした事は言えないが、症状は風邪に似ているという事で風邪薬を処方され、その日私は薬を飲んで鞭の姿に戻り、主の体温を感じながら眠った。翌日、すっかりよくなった私は再び主の用心棒に徹する事となった。













おまけ。




数日後。
「なぁ、星乙女。やはりその服装は問題があると思うんだが、ここはひとつ、CottonEggに頼んで腹巻きを…」
「それだけは断固拒否します」(きっぱり)
「…………」






〜END〜

ごめんなさい、これじゃクォルファ×星乙女ですね。(笑)
でも風邪で女々しくなってますが、普段の星乙女さんはもっと男前なんです。
それとひとつ誤解しないでほしいのは、最後の『主の体温を感じながら〜』の部分。別に添い寝とかじゃなくて腰にぶら下げてるだけですよ〜(笑)


あきゅろす。
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