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オリジナル
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思えばいつだって1人だった。家でも教室でも通学路でも、背中を丸めていた。家族は母1人。俺を不自由なく養うために朝と昼と夜働いている。おかげで高校にも行くことが出来て、せめてもの恩返しにと、優秀な成績で進級した。母はとても喜び、子どもっぽく手をたたいてはしゃいで、なんだが照れくさかった。顔を合わせることはめったにないが母子仲は良好だと思っている。それでも、やはり俺は1人だ。コミュニケーション下手なのに加え人と自分には見えない壁を感じる。どんなに優しくされても、話をしても、壁は消えない。なんだか相手の切実さに申し訳なさを感じて距離を置くようになり、挙げ句壁を認識してからあまり自己主張しなくなった。そうしていくうちにさらに壁が厚くなったように感じている。

(1人だ。)
灰色の空を見上げながら思う。久しく切ってない前髪、指紋で汚れた眼鏡、その向こうの空は風が強いようで、重そうな雲が早送りしたみたいに流れていく。クラスメイトがぶつかってきて自分の顔を見て気まずそうに顔を歪めたことを思い出す。なんだか泣きそうだ。

ドン。と、身体にかかる衝撃で我に帰った。慌てて前を見るとブレザーを着た少年が自分の顔を見ていた。問題は距離が近すぎることだ。身長が大差ないこともあり顔面ドアップ。近い近い近い
「…す、すいません。」
とりあえずぶつかってしまったことを謝っておく。身体をできる限り後ろにそらして距離を取った。距離が空くと相手の全体像が見えてくる。長めの金髪、Yシャツに緩まったネクタイ、暗いチェックのズボン。汚れた革靴から見える靴下はなぜか左右で黒、紺と色が違った。いわゆる不良だろうか路地裏に連れていかれてお金を持って行かれちゃうんだろうか。依然、不良くんはこっちをガン見している。
「…えっと、あっのォ!?」
たいへん愉快な声を上げてしまったのはせっかく空けた距離を詰められてしまったからだ。
目の前に広がる不良くんの目になんだか違和感。
見たことがあるような、よく見ているような、真っ黒な瞳。

日本人でも、瞳が真っ黒ってあんまり居ないんじゃないだろうか。
ーー新生児みたいな目だねぇーー
中学の同級生に言われた言葉だ。クラスの人気者にして平和主義、月二回美容院に行き顔もいい。誰にでも人当たりの良い彼との浅く狭い関係は中学時代とてもありがたかった。
話を戻すと、鼻が触りそうなほどの距離にいる少年の目は自分によく似ていた。
「ねー。」
急に話しかけられて、身体が跳ねてしまい恥ずかしい。
「は、はい…」
「きみさ、名前は?」
少し篭もった低めの声。これも自分と似ていた。不良くんの方が間延びした子どもっぽい口調だし、オマケに自分は若干上擦っているが、声質はだいぶ似ている。
「ミズコシ、コウで…す」
正しくは水越コウだが、名前がカタカナな為か苗字までカタカナの調子で発音してしまう、些細な癖だ。
「ミズコシコウ」
不良くんがそのままカタカナでリピートした。ひどくマヌケに聞こえるのはなぜだろう。

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