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妙子様より

夕暮れどきに公園の
固いベンチに座り、
ボクは目の前にある草花の
スケッチをとっていた。

ボクと30センチくらいの
距離をあけて、
君は何やら書物とにらめっこ。

微動だにしない姿を黙認し、
安心したかのように
ボクの視線は再び草花へと
戻る。

しばらくスムーズに筆を
動かしていると、
ふと、草花の根っこの方で
もぞもぞと蠢く小さな虫たち
に気をとられた。

蟻によく似た彼らは、
陣地争いでもしているの
だろうか。
狭い範囲内でしきりに
互いを威嚇しあう。

彼らはいったい何のために
戦っているんだろう

不意に下らない疑問が
脳の裏側からポンと生まれて
ボクは自然に口元をゆるめた。

何のために?
そんなの決まっている
自分の居場所が欲しいからだ

そしてそれを、力ずくで
手に入れようとしているんだ

ボクは筆を持つ手から力が
抜けていくのを感じた。
脱力して空を見上げる。

きれいな橙色だった。

欲しい…

長い間、そんな感情を忘れて
しまっていたことに気づく。

いや、そんなこと思う余裕が
なかっただけかもしれない。

欲は冷静な判断と行動にとって
最大の敵だったからだ。

なら、ボクは虫以下という
わけか

自分が今まで歩んできた
道のりを思い浮かべて、
それがずいぶん薄っぺらい
ものだったのだと、
今さらながらに気づかされる。

目の前を、何かの花びらが
風に流されてふわりと
浮かんで地面に落ちた。

薄っぺらく流されてきた
ボクの人生を象徴している
ようで、少し不快感を味わう。

「何難しい顔してんのよ?」

パタンと本を綴じる音がして
君が顔を覗き込んできた。

「別に、いつもこんな顔
ですよ」

「ウソ、眉間にシワ寄ってる
わよ?
花を描きながらそんなに顔を
しかめる人っていないわ」

ボクがしらばっくれると、
すかさず君はボクの眉間を
人差し指でつついて言った。

「ね、何考えてたの?」

言えるわけなどない、
自分が虫けら以下で、
人生は花びらのようだなんて


「にしても、アンタやっぱり
上手いわね」

ボクが口をつぐんでいると、
君は勝手にスケッチブックを
奪い取り、まだ未完成の
草花の絵をまじまじと
見つめた。

草花の存在って、
平和そのものだと思わない?

そして嬉しそうにつぶやく
君の声に、

「もう争いごとなんて
起こらなければいいのに」

先日任務帰りに顔を歪め
ながら言った
一言を思い出す。

人は平和を望むもの、
それはあたりまえのことで…

「君も、平和を望みますか?」

ボクの問いに、
君は一瞬動きを停止したが
深く考える間もなく

「あたりまえじゃない」

と、さも正しい答えを言う
ように返した。

じゃあ君も虫以下にならない
とね

心でつぶやき、視線を再び
虫に落とす。

彼らはまだ戦っていた。
自らの欲を通すために。

「平和なんて来ないんだよ」

「…え?」

君の表情がさっと強ばった。

「人が争う諸悪の根源はね、
欲なんですよ」

ボクは不安な色に瞳を染める
君からそっと、
スケッチブックを取り戻す。

「生き物の存在そのものが
平和の邪魔をしているんです」

そしてさらに正しい答えを
君に突きつけた。

「…それは、そうだけど」

何とか反論の言葉を
見つけようと、
君がまごついている間に
ボクは新しいページに
彼らをスケッチし始める。

何かを強く欲するという
気持ち、

さっきないと言ったわりに
ボクの内っかわの方で、
得体の知れない感情が
息を潜めてうずくまっている。

ボクは気づいていた。
そいつが欲とよく似ていることに。

そして、ボクはそいつが怖かった。

「でも、みんな里を守ろうと
必死になってるわ。
それって平和を望んでるから
でしょう?
ナルトだって…」

まだあきらめていなかった
のか、
君がたしなめるように
口を開く。

「それが争いに勝つことで
得られるものでも?」

ボクは素直に思っている
ことを口にした。

ぐぅの音もでないのか、
君は開いた唇を静かに
閉ざす。

「平和なんて、争いがある
からこそ生まれた言葉なんだ」

さらに決定的な一言が
ボクの口をついて出た。

「それを言っちゃ
身もフタもないじゃない」

言い過ぎた…
そう思った時はもう遅かった。

とうとう君は涙目になって
ボクにすがりつくように
身をあずける。

ボクの内側から、
かすかに扉を叩く音がした。

「君には悪いけど、
ナルトだって…
火影になりたいってことは
そのポジションを誰かから
奪うってことだろ?」

ボクは扉にしっかりと
鍵をかけて、言った。

ボクの袖をつかむ君の手に
力がこもる。

「強くなりたいと願うこと
じたい、
平和じゃないんですよ」

スケッチする手を止めて、
ボクは君をすっぽりと
包み込んだ。

「サイは?ないの?
そういうの」

胸の中で、君がこもった
声を出す。

「…ないよ、ボクは与えられた
ことをするだけ。
それ以上も以下もない」

口にした途端、再度内側から
扉を叩かれる。
今度は激しく。

「みんなサイみたい
だったら…………、ごめん」

願ったことの残酷さに
気づいたのか、
君は苦しそうに眉を曲げて
顔をあげた。

「いいんですよ、
ボクばっかりなら確かに
平和かもしれない」

ボクは何故だか笑っていた。

傍らにある虫のスケッチに
目をやる。

あらゆる生き物の中で
一番優れているはずの人間。

それに生まれたはずなのに、
自分が一番劣っているような
気がした。

生き物は生まれた時から
何かに執着する習性を
持ち備えていると言うのに

ボクはいつから失くして
しまったんだろう

ドンドン!

感傷に浸りかけた瞬間、
三度音がしたかと思うと
ついにごわごわとした
何かが扉を突き破って
体内から溢れ出てきて
しまった。

ボクは本能的に君の背中を
強く抱く。

「…サイ?」

君はそんなボクを、
目を凝らして見上げていた。

「やっぱり違った?」

君も本能的に何か感じとった
のか。

強ばっていた表情をいくぶん
といて、
乞うように訊ねる。

「サクラは優しいんですね」

ボクを人としての位置まで
引き上げようとしてくれて
いる。

人としての執着心や欲が
ボクにもあると信じて
疑っていない。

その見えない優しさが
じわりと身にしみた。

おかげで向き合う勇気が
少し出た。
気づくのが怖くて
ずっと閉じ込めていた
ボクの人としての
初期装備。

それが君の存在で
いとも簡単にボクの身体に
装着される。

「恥ずかしいけど、
違ったみたいです」

ボクは力いっぱい君の頭を
胸の中に押し込んで
白状した。

「よかった」

君はもがくこともせず、
ただただ淡々とボクを
肯定する言葉を紡ぎ出す。

その一言がとても
心地よかった。

「でも君は困るかもね」

頭を抱え込んだまま言う。

「ボクの欲の矛先は君なんだ」

ボクの胸に顔を押しあてた
ままで、
君は何を思うのか。

それとも次の言葉を待って
いるのか、

君は口を閉ざしたまま
一定の間隔をあけて、
呼吸を繰り返すのみ。

次の言葉を言ってしまえば
ボクの中にある平和が
音をたてて崩れてしまう
だろう。

それを知っていて
待っているのか、

だったらお望みどおり、
壊してあげるよ。

「ボクは時々ひどく君を
自分のものにしたいって
思うことがあるんです」

ピクリと君の肩が揺れた。

「でもそれって平和じゃ
ないだろ?」

どういう意味?
とばかりに君がまつ毛を
あげる。

「だってそう思うことで
ボクはナルトや…
サスケ君と争うことに
なるかもしれない」

大きく見開かれた翡翠色の
瞳は、
いつのまにかボクの色で
うめ尽くされていた。

「それでもいいんですか?」

平和を壊す確認をとる。

君は、壊して…と
言わんばかりに、
ゆっくりとまぶたの力を
抜いた。


保たれていたものは今、

崩れてボクたちの足元に

パラパラとはがれ落ちた。



END


お妙ちゃん宅の三万打小説を強奪して参りました!
サイの心理描写など…素晴らしすぎます(^^)原作のサイも、こんな事を思っているんじゃないかと…!
平和や、争いについても改めて考えました。
そしてぜひともサスケくんやナルトとサクラちゃんをめぐって争ってほしいと思ry
やはりお妙ちゃんはサイサクの師匠ですっ!
ほんとうに三万打おめでとうございました〜(^^)!!

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