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詠子様より

《普通》






「私のこと、どう思う?」

爽やかな秋晴れの朝。
級友らのざわめきにまぎれて、
サクラは不安げな声で尋ねた。

教室へ入ってきたばかりだった
サスケは、一瞬足を止めたが、
すぐにまた歩みを進める。

サクラはあとを追いながら、
おなじことを繰り返した。

「ねぇ、どう思う?サスケ君」

「うざい」

わずらわしそうに振り向いた
サスケが、あっさり言い切る。

「そうじゃなくて!もう…
ほかにもなんかあるでしょ?」

サクラは顔を伏せながら、
ちがうちがう、と首を振った。
サスケが目をすわらせる。

「ない」

朝っぱらからサクラにからまれ
た上、意味不明な質問をされる
のが相当気にくわないらしい。
サスケの機嫌が悪化していく。

サクラだって、サスケが怒る
ような事はしたくないのだが。
ここまできたら言うしかない。

「だから、例えばその…あの…
す、好きだなーとか……さ…」

ぷしゅうっと湯気がたちそうな
ほど、サクラは顔を赤らめる。

サスケが視線を横に流した。
端正なつくりの仏頂面からは、
なんの感情も読みとれない。

サクラは、おずおずと訊いた。

「私のこと、どう思う?」

サスケは片眉をついとあげ、
けだるそうに腕組みをする。

「べつに」

「うっ!……そ、そっか」

やっぱり、そうだよね。
予想していたとはいえ、
案の定残念な返答である。

「べつに、普通」

一呼吸のあと、サスケが
ぼそりと小声で言い直した。

「え?」

サクラはきょとんとした。
あわただしく瞳をまたたく。

「普通?」

普通。普通ってなんだろ。
考えこむサクラをよそに、
サスケは自分の席へ向かう。

サクラはその場に立ったまま、
うーん、と首をひねった。





「ねぇ、どうだった?」

サスケがいなくなったのを
見計らって、いのとヒナタが
サクラの元に駆け寄ってきた。

いろよい返事を期待する
ふたりの瞳はきらきら光り、
その頬はやや紅潮している。

「えーっと………」

サクラはぽりぽりと頭をかき
ながら、目線をはずした。

「……べつに普通、だって」

あははーと笑顔で報告した途端
いのとヒナタの顔が青ざめる。

「あ…あのね、サクラちゃん。
無理しないでもいいんだよ?」

泣きそうな顔のヒナタが、
そっとハンカチを差しだす。

「アンタなに笑ってんのよ!」

いのはサクラの両肩をつかむと
力まかせに強くゆさぶった。

「バカ!我慢しちゃだめよ。
思い切り泣いて忘れなさい!」

がくがくと視界がゆれるのに
かまわず、サクラは苦笑する。

「やーね、どうせこうなるわよ
って最初に言ったじゃないの」

私のこと、どう思う?
突然そんなことを訊いたのは、
サクラ個人の意志ではない。

昨日の放課後、サスケに置いて
きぼりにされて落ちこむサクラ
を見かね、いのが言ったのだ。

『サスケ君って……本当に、
サクラのことが好きなの?』

そんなことこっちが訊きたい
わよ!と、サクラは思った。
好き、という言葉をサスケの
口から聞いたことがないのだ。

『だったら、訊いてみなよ。
答えてくれるかもしれないし』

あっけらかんと言ったいのに、
サクラはあきれてしまった。

サスケの唇はいつも引き結ばれ
ていて、そこから愛の言葉が
紡がれるなど想像もできない。

サスケの機嫌が悪くなるだけで
答えてくれるわけがないのだ。

だから、ぜったいに無理。

そう言い返しながらも、心の
どこかで期待する自分がいた。

もしかしたら、と考えたら、
高鳴る胸の鼓動がおさまらず。
最終的には、いのの言葉に、
しっかりうなずいていたのだ。

―――結局、無駄だったけど。

「かわいそうなサクラ!」

物思いにふけるサクラを見て、
いのがさらに激しくゆさぶる。

かわいそう、か。
フラれたわけでもないのに、
なんともむなしい言葉だった。
だが、当然の反応だろう。

どこの世界に、彼氏から面と
向かって「べつに普通」と宣言
される彼女がいるというのだ。
サクラは短く嘆息(タンソク)する。

こんなの私だけ、だよね。

サスケに質問する前からわかり
きっていた結果だとはいえ、
やはり悲しいものは、悲しい。

好かれていないのは、つらい。

泣いたりはしなかった。
かわりに、胸がとても痛んだ。





それでも、サクラはサスケと
一緒にお昼ご飯を食べた。

でもそれは、サクラの気持ちが
落ちつき、状況を割り切って、
立ち直ったからではなかった。

サクラが抱く悲しい思いは、
四時限の授業時間でおさまる
ものではなかったし、時間が
経てばたつほど、逆に色々と
考えてしまって暗くなった。

だからといって、サスケと
離れるなんて考えられない。
昼休みはサスケとふたりで
過ごす、大切な時間である。
無理な笑顔をつくってでも、
一緒にいたい。それだけだ。

授業が終わると、どちらから
ともなしに、屋上へ向かった。

いつの間にか身についた習慣の
ように、お弁当を食べる。

サスケはあまり話さないし、
サクラは話す気分ではなく。
会話はまったく弾まないが、
黙って並んで座ることは、
苦痛ではなかった。

サクラがのろのろとお弁当を
食べ終わったのを合図にして、
サスケはさっさと立ち上がる。

「オレは先に戻るからな」

サスケは校内へつながる扉を
開き、ひとりで歩いて行く。
急いであとにつづいたサクラは、
階段をおりながら声をあげた。

「まって!サスケ君。まって」

「なんだよ」

気づいたサスケが振り返る。

「あ…うん」

サクラはうなずいたが、
自分がなにを言いたいのか、
あまり理解していなかった。

ただ感じるのは、どうも、
ふに落ちないという事である。

いつも通りすごしていると、
問題ないように感じるけれど。
こんな私と一緒でいいのかな。
どうして、平気でいられるの。

黙ってうつむくサクラに、
サスケは顔をしかめた。

「次の授業がいやなのか?」

「―――え?ううん、普通」

次の授業は、物理。
特別きらいではないけど。
サクラは何気なく答えたあと、
はっとして目を見開いた。

私のこと、どう思う?と
尋ねたサクラに、サスケは、
『べつに普通』と言っていた。

普通だから、好きではない。
好きではないから、私は彼に、
きらわれているんだ。

そう思っていたけれど。
本当はちがうのかもしれない。

「用がないなら呼ぶな」

動こうとしないサクラに見切り
をつけて、サスケが歩きだす。

「ちょっとまって!」

サクラは、サスケの学ランを
後ろからぐっとつかんだ。

「サスケ君、トマト好きよね」

「いきなりなんだ」

よろけながらサスケが答える。

「いいから、早く教えて!」

サクラの剣幕におされたのか、
サスケはしぶしぶ口を開く。

「べつに、普通」

「納豆と甘いものは?」

「両方ダメだ」

「おかか入りおむすびは?」

「普通」

淡々と答えるサスケに、
サクラはごくりと息をのむ。

「じゃあ、私のことは?」

サスケは黙った。
ぐっと眉根を寄せる。

「またそれか」

「いいじゃない、答えてよ」

サクラは両手を合わせて、
お願い、と拝むようにする。
サスケはいらいらした様子で
投げやりにつぶやいた。

「だから、普通」

サクラは顔を輝かせる。

「普通……普通ね!」

比較対象が食べ物なのは微妙
だが、サスケの中でサクラは、
大好物のトマトやおかか入り
おむすびと同じ扱いらしい。

つまり、きらわれていない、
ということだ――――。
野菜や米粒と同等だとしても
きらわれてしまうより、いい。
サスケに、きらわれたくない。

だからサクラはうれしい。

「ありがとう、サスケ君」

にこにこ笑うサクラを、
サスケは怪訝そうに眺める。

「やっぱ、うざいな」

「え?なに?」

サクラは小首をかしげながら
サスケの顔を見あげた。
わずかな時間、見つめあう。

すると、どうしてか。
サスケのほうが先に、
あせったように目をそらした。


**************
詠ちゃんより頂きました〜!
以前から大大大好きな学パロシリーズです(*^^*)
私が勝手に送りつけたイラストなのに、素敵な小説を書いてくださるなんて…もはや感激!という言葉では全然足りないです^^
ぶっきらぼうなサスケくんの「普通」に、キュンとしました^^
やはり詠ちゃんの小説は最高です!
本当に、ありがとうございました!

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