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ゆすら様より
June wish




「おめでとう〜!!」
「幸せにね〜!!」

鳴り響く鐘の音と共に祝福の声が上がる。


「あ…結婚式だ。」

「ホントだ!花嫁さん綺麗〜!!」

教会の傍を通りかかったサクラといのが結婚式に気付く。

「…ねぇ、いの。」

「なに?サクラ。」

「私達って、どんな大人になるんだろうね。」

「サクラ…?」

サクラの言葉に妙な違和感を覚えたいのがサクラを見ると、サクラは何だか神妙な面持ちで結婚式を見つめていた。

「…そんなの決まってるじゃない。私は超〜美人で里中のアイドルになってるわよ。」

いのがわざとらしく明るい声で言うと、サクラは少し笑顔を見せた。

「いのが超〜美人なら、私は絶世の美女ね。」


そんなやり取りを少しした後、サクラは再び結婚式へと目を向けた。
何かを思いつめたような表情に、いのは何故か不安になった。


「…どんな人と結婚するんだろうね、私…。」


ポツリと口にしたサクラの言葉。
サクラの考えていることが漠然とわかったような気がして、いのは自分の手をぎゅっと握り締める。


「サクラがそんなこと言うなんて珍しいわね。アンタなら
『サスケくんのお嫁さんは私!!』とか言いそうなのに。」

「え…。あ、うん、そうなんだけど…。」


いのの言葉にサクラははっきりしない返事をして俯いた。
その様子からサスケに対することで何か不安なことがあるんだと、いのの直感が言っていた。


「サク…」
「サスケくんのお嫁さんになる人ってどんな人なのかな。」

「え…?」

「きっと、すっごい美人で、頭もよくて、スタイルも完璧で、忍としても超一流な人なんだろうな…。」


サクラはそう言うと、いのに向かって力無く微笑む。
いのはそんなサクラを見ていられず、目線をサクラから結婚式に向けた。

「…諦めるの?サスケくんのこと。」

いのからの、質問。
サクラはしばらく黙った後、答えた。

「諦めないよ。でも…。」

「でも?」

「サスケくんが私を選んでくれるとは限らないじゃない。」

予想外の返事にいのがサクラを見ると、サクラの頬には涙が零れ落ちた後が見えた。

「サクラ…?」




…中忍選抜試験終了後から、サスケくんが違う。
何故かわからないけど、以前よりも強さに執着しているような気がして。
いつか、いなくなりそうで…怖い。



そんな想いをサクラはずっと抱えていた。



もしそうなった時、私にサスケくんを止められるの?
サスケくんは、私の想いを受け止めてくれる?



起こるかどうかわからない未来に想いを馳せては涙が零れてゆくことにサクラは抵抗することなく、ただただ幸せそうな花嫁を見ていた。

「サクラ…何か、あったの…?」

いのが尋ねる。
痛々しい親友の姿に、これ以上黙って見守ることが出来なくなっていた。

それでもきっとサクラは自分には何も言わないだろうとわかってはいたけど、いのは聞かずにはいられなかった。

「…何も、ないよ。」

案の定そう言って笑うサクラに、いのはどうすればいいのか少し困った。

「…サスケくんのお嫁さんになる人、見てみたいなぁ…。
きっと、私なんて足元にも及ばないような綺麗な人だよね。」

「人の将来を勝手に決めるな。」

「え?」
「あ…っ!」


背後からの声に2人が振り向くと、そこには今話題に上がっていた人物。

「サスケくん!」
「いつからそこに?」

サスケは呆れたような顔で近づいてくる。

「…サクラ。」

「なっ、何…?」

サクラはサスケに見つめられて少し戸惑った。
今の話を聞かれて、どんな顔でサスケに向かえばいいのかわからなくて。

なのにサスケから目を逸らせない。
サスケの漆黒の瞳に自分が捕らえられていると、サクラは改めて思い知らされた。

「そんなにオレの将来が気になるのか?」

「え…?…うん…。」

「その内わかることなのに?」

「…そんなの、わからないよ…。」

「…どういう意味だ?」


サクラの言葉と表情にサスケが顔を曇らせる。
サクラは一瞬、唇を噛みしめた後、口を開いた。

「…だって…その頃までサスケくんがいるか…わかんないし…。」

「…………!!」


サクラの言葉にサスケが固まる。

…何故?
どうしてわかる?

サスケは心の奥に隠してある思いをサクラに見抜かれた気がして言葉を返せなかった。


…その時のサスケは、今より強くなるにはどうすればいいのか、それだけを考えていた。

ナルトの急成長。
イタチへの復讐。
サクラを守れなかったという現実。

サスケを焦らせ、強さに執着させるには充分過ぎる出来事に追われ、闇への道も考え始めていた。


「…何言ってるのよサクラ!
まるでサスケくんがいなくなるようなそんな縁起でもないこと…。ごめんね、サスケくん!」

いのが間に入り、明るい声で場を繕う。

「いの…。そうだよね。
ごめんね、サスケくん。」

サクラはいのの様子に今の空気を読み、少し笑顔を作った。
サスケは顔を曇らせたまま、無理に笑うサクラの顔を見ていた。


「……30年…。」

「え…?」


サスケの声にサクラが反応する。
サスケは少し微笑みながらサクラの目を見てこう言った。


「30年くらい経っても売れ残ってたらもらってやるよ。」

「えっ…。」

「サスケくん、それってサクラに…。」


サスケは、今の言葉にサクラが笑顔を見せると思っていた。
だが、サクラが見せたのは淋しげな顔。


「…いいよ別に。もらってくれなくても…。」

「!?」

「ちょ、ちょっとサクラ!
アンタ何言って…。」

「…サスケくんがずっと木の葉にいてくれるなら、サスケくんのお嫁さんになれなくてもいい。」


サクラはジッとサスケの目を見つめた。
今にも泣きそうに、瞳を震わせながら…。

「…………っ…。」


完璧に見抜かれていると、サスケが知る。
どうしてこれほどまでにサクラにはわかるのだろう。


「…チッ……言ってろ。」

返す言葉が見つからず思わず黙ってしまったサスケの口から出た言葉は捨て台詞のような言葉で。

そのままサクラといのに背を向けて歩き出した。


「…サクラのバカ。」

いのがサクラに呟くように言う。

「…ホント、バカだよね、私…。」

サクラは自嘲気味に呟く。

2人の間に気まずい空気が流れ始めた時だった。


「サクラ!!」

「え?」

突然名前を呼ばれたサクラが顔を上げると少し先にいるサスケが何かを放り投げるのが見えた。

「え?あっ…わ…。」

サクラはサスケが放り投げた何かをなんとか無事にキャッチした。

「それ、やるよ。」

「へ?」

サスケの声に、手の中にある“それ”を見る。
“それ”は、ビーズ細工の指輪。

「サスケく…」

「失くすなよ。」

「え…?」

「母さんの形見だから。」


そう言って、サスケは再び背を向けて歩き出した。


サクラの手に託された『サスケの母の形見』。

その瞬間、サクラにはわかってしまった。

サスケの心が。


「ちょっと、サクラ!?」

いのの声を振り切るようにサクラが突然走り出した。



「サスケくん、危ないっ!!」

「え…?」

いのの叫び声にサスケが振り返ると目の前にサクラが迫っていた。

「…わっ…った!!」

サスケは抱きついてきたサクラを受け止めたものの、サクラの勢いがありすぎて後ろに倒れ込んだ。

「いってぇ…。」

「サスケくん、大丈夫?」

「あ、ああ。」

いのが駆け寄ってくる。
地面に座り込んだ状態で、サスケの胸には顔をうずめて動かないサクラ。

「ちょっとサクラ、何してるのよ!」

「…………………。」

「…サクラ?どうした?」

「…………………。」

サクラは何も答えない。
ただ、サスケにぎゅうとしがみついたまま、微動だにしない。

「サクラ、サスケくんが困ってるじゃない。早く離れなさ…!?」

「サクラ!?」

サスケといのが、サクラの様子に気付く。

微かに肩を震わせ、注意して聞かなければわからないくらいに小さな泣き声で、それでもサスケの背中に回した両手はしっかりとサスケの体を捕らえていた。

「……………っ……。」

「…サクラ…。」

サスケは自然とサクラの髪を梳くように右手で頭を撫で始めた。
左手はサクラの震える肩に、抱きしめるように触れる。

「…………っうっ…。う…。」

「サクラ…。」

自分の胸の中で自分を想い泣いているサクラの姿に、サスケはある決意をした。



「サクラ。」

「………っ……。」

「………もし…10年が過ぎて、その時にはサクラの髪が前よりも長くなってて…。」

「…サ…スケく…ん…?」

サスケの言葉に、サクラが顔を上げる。
翡翠色の瞳は涙で潤み、頬には零れ落ちた後が見える。


「そして、その指輪をちゃんと持っててくれたら…。」

「……ゃだよ…。」

サクラの瞳から涙が零れ続ける。

「…その時は、お前をもらう。」

「うっ…ううっ…。」

「だからそれまで、サクラはサクラのままでいてくれ…。」

そう言うと、サスケはサクラをぎゅうっと抱き締めた。

「サスケくん…。」

傍でサスケとサクラを見ていたいのには、一瞬サスケの頬を光る何かが伝い落ちたように見えた。



サスケくんが、行っちゃう。

きっと、すぐに。

遠い、遠いところへ。

行ってほしくないのに。

そんな約束いらないのに。

「やだよ。」も「行かないで。」も言葉にならないなんて。


「…サ…スケ…くん…っ。」

サクラはサスケの体を捕らえる両手に出来る限りの力を込める。
言葉にならなくても気持ちが伝わることを願い、全身でサスケにしがみつく。


サスケも、同じように力を込める。


どうか、待っていてくれますように。


そんな想いを込めて。


「…10…年…。」

「?…サクラ?」

サスケの胸に顔をうずめたままのサクラから声がした。

「どうした?」

「…10年しか…待たないから…。」

「!」

「サクラ…。」

サクラの言葉で、サスケの顔に少し笑みが浮かぶ。

「…ああ。10年でいい。必ず、迎えに行くから。」


その頃にはきっと、サクラの髪も長くなっているだろう。

…あの時、オレのせいで切ってしまったあの髪。

守りたかった。

なのに守れなかった。

オレに力が無かったから。

だからオレは…。


今度こそ守れるように。



「サスケくん。」

「…山中…。」

いのの声にサスケが顔を上げた。

「サクラのこと、もう泣かさないでよね。」

「……!!」

強い瞳でサスケに向かういのに、サスケは一瞬言葉に詰まる。

泣かさないなんて、約束出来ない。


きっともうすぐ、比べ物にならないくらいに泣かせてしまうだろうから。


「サスケくん?」

「…泣かせても…、10年後にはそれ以上に幸せにするよ。」

そう言って、サスケはサクラの髪に顔をうずめた。

いのはそんな2人を見て静かにその場を離れる。

2人が、
サクラが笑顔でいられることを願いながら。






…再び鐘の音が響く。
サスケとサクラが顔を見合わせる。

恥ずかしくて気まずい空気が一瞬流れる。

先に笑ったのはサスケだった。

「意外と力強いんだな。」

体が痛いと笑いながら言うサスケを見てサクラが漸く微笑む。

「サスケくん。」

「何だ?」

「もう一回、ぎゅってして?」

「ばっ…そんなこと出来るか!」

顔を真っ赤にして拒否するサスケにサクラが一言。

「サスケくんのケチ!」

「ケチってお前…!?」


サスケが見たサクラは自然な笑顔で、でも涙が零れていた。

「サクラ…。」

「約束だからね!!」

「え?」

「それじゃサスケくん、また明日、ね。」

「ちょっ…サクラ!!」


サクラは振り返らずにその場を走り去った。

止まらない涙を必死に拭いながら。



手の中にあるビーズ細工の指輪を握りしめる。



いつか、2人が本当に笑い合える日が来ることを願って。





…それからしばらくした三日月の光る夜。


サスケは、里を抜けた。



最後に逢ったのは、サクラだった。







『…10年しか…待たないから…。』

『…ああ。10年でいい。必ず、迎えに行くから。』



サクラの手の中には、ビーズの指輪が握り締められていた。



ゆすら様宅からいただいて参りました!
3ヶ月おめでとうございました^^♪
サクラちゃんの想いに胸がしめつけられます。
サスケくんは必ず戻ってきてサクラちゃんを嫁にもらいなさい!と言わずにいられません^^!
きっとサクラちゃんの花嫁姿はきれいなんだろうなぁと親心にも似た気持ちです笑
この度は素敵な小説ありがとうございました!

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