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ゆすら様より
堕ちる。







堕ちる…。












堕ちる………。








どこまで…?






…どこまでも…?





ただわかっていることは、




堕ちる程に闇が深さを増していき、










今では自分の輪郭すら危うい…。





このまま…





消えてゆくのか……。





















瞼を開けるとそこは薄暗く、周囲の様子が見てとれない。



(……ここは………?)


ボヤ〜ッとした視界と朦朧とする意識の中、自身の置かれた状況を何とか把握しようとゆっくりではあるが目線を動かしてゆく。

少しずつ合ってゆくピント。
それでもわかるのは、ここが、何もない薄暗い場所だということ。


体を起こそうとした時に初めて自分の体に誰かが寄りかかっていることに気づいた。

薄暗い中、必死に目を凝らして見るが顔が自分の体に埋められていて確認出来ない。

何とか動く右手でその頭に触れてみる。
少し動かすだけてズキンと痛む関節。

何故今こんな状況にいるのか…。

何もわからなかった。


「ん…?」

寄りかかっていた頭が動く。
慌てて手を頭から離そうとするが、思い通りに動かない体はいうことをきかない。

「…サスケくん…!?」



…聞き覚えのある声。

誰だ?

なんて聞き返す必要もない。


「………サ…クラ…?」


顔が近づく。
目の前まで来たときに漸く認識できる。

薄暗い中で微かに光を持つ桜色の髪。

あの頃のような瞳でオレを見てはゆっくりと柔らかく微笑む。


「…よかった…。」


そう呟いたサクラの目から伝う雫。

…何故泣く?
どうしてここにいる?
オレ達は一体どうなっている?

聞きたいことはいくつもあるが、なかなか言葉にならない。

「サスケくんの…バカァ…。」

サクラはボロボロと涙を零しながらオレに抱きつく。
オレには何が何だかわからない。



少し体の強張りが和らいだ気がしたオレはゆっくり体を起こす。

「サスケくん、無理しないで!」

「サク…ラ…。一体オレ…は…?」


サクラが気まずそうに少し目線を外す。

しばらく黙った後、サクラが口にした言葉をオレは信じられなかった。


「……死のうと、思ったの…。」


サクラの言葉にオレは固まった。
元から強張っている体だけでなく、言葉も出ない。

サクラはオレを見ずに、少し震えている。
よく見ると、オレもサクラも濡れていた。

オレはサクラの右頬に左手を伸ばすとサクラの顔をオレに向けた。

サクラはさっきよりもボロボロと涙を零し、小さな声で「ごめんなさい…」と繰り返し呟いている。


「…ど…して死のうと…?」

「…………もう、耐えられなかった…。」

サクラは自分の手をギュッと握りしめた。

耐えられない。
何が?

オレには何も出来ず、ただただ泣いているサクラの頬に伝う涙を拭うことしか出来なかった。

しばらくするとサクラはひとしきり泣いたのか、ハァと一息つくと申し訳なさそうな顔でオレを見る。

「…どうした?何が…耐えられなかった…?」

「……サスケくんが…いないこと…っ。」

そう言うとサクラは俯いた。
一度落ち着いたはずの涙腺が再び緩みそうで、サクラが必死に堪えているのがわかる。

「……死のうと思って…滝壺に飛び込んだの…。なのに…気づいたらこの洞窟のそばにいて…。」

サクラの言葉に少しずつ記憶が戻る。


…そうだ。
森の中を移動していた時、懐かしいチャクラを感じて。
チャクラのある方へと行ってみるとピンクの頭が滝壺へと落下していくのが見えたんだ。

そのピンクの頭がサクラだと認識するのに時間など必要なかった。
感じたチャクラがサクラだと、わかっていたから。

気づけばオレは滝壺へと飛び込んでいた。

何故?
そんなことわかるはずがない。

サクラだと認識した瞬間、無意識に体が動いていたんだ。

滝壺に落水する寸前にサクラの体を捕らえ、抱きかかえたはよかったが、寸前すぎて結局落ちた。

サクラは落下していく最中に意識をなくしていた。


…サクラを助けなければ。


落下の勢いで思いのほか深くまで沈みながらも、それしか頭になかった。



「…思い出した…。」

「サスケくん…。
…私が気づいた時にはサスケくんの意識がなくて、近くにあったこの洞窟に…。」

サクラはギュッと目を閉じた。

体も頭もだいぶ感覚が戻ったオレはゆっくりと立ち上がる。

「サスケくん…!」

「…そんなことで…死のうなんて考えるな…。」


そんなこと。

オレがいない。

ただそれだけのことで
死のうだなんて。



「…そんなことだなんて…言わないで…。」

サクラが震える声で呟く。サクラの手はオレの服の裾を掴んでいる。


「そんなことだ。
それと…オレのことはもう…忘れろ。」


オレはサクラの手を振り払い、ゆっくりと洞窟をあとにした。



外に出ると雨が降っていた。

しとしとと、音もなく。

顔を空に向けて雨を受け、目を閉じる。

一瞬、雨粒とは違う温かい雫が目尻から零れた気がした。


ぎゅっ……。


背後からオレの体を白く細い腕が包む。
背中に、温かい感覚。


「…忘れない…。」

少しこもったサクラの声がする。
まわした腕に力が込められたのがわかった。

「忘れるなんて出来ない!
だって…」



この続きは聞いてはいけない。
聞けばきっと、オレが揺らぐ。


わかっていながら、オレはサクラの言葉に耳を傾ける。



「だってこんなにもサスケくんを愛してる…!」


胸が一気に熱くなる。
オレは、どうしたい?


「そんなことだなんて言わないで…。サスケくんのいない毎日は、私にとっては孤独でしかないの…。」


それはあの日のサクラが言ったことと同じ。

今もあの日と同じ気持ちでいるというのか?


「お願い、サスケくん…もう…置いてかな…。」
サクラの言葉を最後まで聞かずに、オレはサクラに向き直り抱き締めた。

あの日から今日までの離れていた時間を埋めるように力を込めて。

サクラの感触を
サクラの匂いを
サクラの体温を

自分の中に記憶させる。


「サスケく…。」

サクラの瞳から涙が零れる。
オレはサクラが呼吸困難になるのではないかと思うくらいに、強く、きつく、抱き締める。

サクラもオレを力一杯抱き締め返す。


「サスケくん…もうどこにも行かないで…。置いていかないで…。」


どうする?

なんてオレに選択肢はない。


「…無理だ…。今更、木の葉には戻れない…。」

「だったら私も一緒に…」
「連れて行かない。」


オレの言葉にサクラがピクリと反応する。

「ど…して…?」

「連れて行けない…。」

もう一度、サクラを抱き締める腕に力を込める。

「サクラまで、こっちの世界には連れていけない…。」

「………サスケくん…。」


「…いつか全てが終わって、それでもサクラの気持ちが変わらないのならその時は…。」

「…サスケくん…?」



トンッ…



「サスケく……。」


オレの背中から滑り落ちてゆくサクラの手。

あの日のように、サクラの意識を奪う。

オレの腕の中のサクラはあの日と同じで泣いている。

雨のせいではなく…。












「ん……?」

「サクラ!大丈夫か!?」

「……カカシ先生…?私…。」


気づいた時には木の葉病院のベッドの上だった。

「雨の中、傘も差さずに何してたのよ?」

「何って……。」

…思い出せない。

ただ、気づけば涙が溢れていた。

「サクラ?」

「ごめんなさい、どうしたんだろ、私…。」

拭っても拭っても止まらない。
どうしたの?私…。

「ま、とにかく今はゆっくり体を休めて回復に努めるんだな。」

そう言ってカカシ先生は私の頭を軽く撫でると笑顔で病室から出て行った。



…私、どうして雨に濡れていたんだろう…。


ベッドに横になり目を閉じて思い出そうとしてみる。










『サクラまで、こっちの世界には連れていけない…。』




「え…?」


何かを思い出した気がした。
あの声は確か…











『…いつか全てが終わって、それでもサクラの気持ちが変わらないのならその時は…。』





「…サスケくん…!」


声の主をはっきりと思い出す。

それは今でも誰よりも愛しい人…。


溢れる涙の意味を漸く理解した。

サスケくん…。


「…いつか全てが終わって、
それでも私の気持ちが変わらなかったら…その時はサスケくん、どうするの…?
…待っていてもいいの…?」


降り続く雨音が心に響く。


「サスケくん…。」


あなたもどこかでこの雨を見ていますか…?











…オレはサクラを木の葉の入り口に送ったあと、すぐにその場を離れた。

今はまだ、木の葉には戻れない。


…いや、きっとこの先ずっと…。



それでも…いつか全てが終わって、それでもサクラの気持ちが変わらないのならその時は…。







「…その時はお前を迎えに行く…。」


だから、今は追うな。




オレの行く先は、


自分すら認識できないほどの





闇の中だから。






お前はそんなオレを正しく照らす










一筋の光であってくれ。




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ゆすら様より頂きました!!な、なんと、私のイラストを見て書いてくださったのです…!
あんなイラストからこんな素敵なお話を考えてくださったゆすら様に、何とお礼を言ったら良いのか…!嬉しすぎます(;;)
サクラちゃんのつれていって欲しいという気持ちとサスケ君の連れていけないという優しさと…本当に切なくて胸がしめつけられます。原作でもこのくらいの絡みを…と思ってしまいました(^^)
ゆすら様、本当にありがとうございました!

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