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猫はご主人様に夢中!


6


「俺帰るわ。母さん達も待ってるし」

「おう」

「その猫頼むよ」

「はいよ、また月曜な」


足早に帰っていた幸太を見送ると、まだ昼ご飯を食べてない事に気が付いた。

すっ立ち上がったかと思うといきなり手を後方に引っ張られバランスを崩し、美咲の腹にめがけて落ちた。


「…ってーな!」

それ程痛くはないが急に手を引かれれば誰だって驚くだろ?

「どこに行く?」

「別にお前になんか「どこに行く?」

引かれた手はそのままで。
次第に掴まれる力が強くなっていく。
な…なんだ?

「俺から離れるな」

一瞬、その言葉に思考回路を妨げられた。何を言い始めるんだ、こいつは。
ちらりと盗み見をすると、そいつは俺のことを悲しそうな目で伺って来る。

「離れないから、腕放して」
「……」
「美咲…痛い…」

初めて声にだして呼んでみた名前に違和感はなかった。ただ美咲は少し目を見開いて、掴んでいた手をそっと離した。

「赤くなってる…な」

そうボソリと呟くと、ごめんとか痛かった?とか聞こえないくらい小さな声で言いながら、赤くなった部分をちろちろと舐め始めた。

「ばっ…!」
「恋人…イタカッタ?」

ロボットのように片言で問う姿は俺を黙らせた。

「…嫌いになった?」
「な…らないけど…?」
「嫌いになるなら、、いっそ…」

そういうと段々と手が下から上へと這うように迫る。
俺の言葉が聞こえないらしく、目は虚ろだ。

「こ…せば…」

あまりに小さかった声は俺の耳までは届かなかった。

「殺せば…恋人は…俺のも…の?」

やっと聞き取れた音かと思えば、その単語の一つ一つが俺に恐怖を与えた。
壊れたカセットテープのように何度も問い掛けている。勿論、それは俺ではなく自分自身への疑問なんだろう。

何故こいつはこんなにも歪んでいるのかわからなかった。
出会って1日しか経たない、それなのに俺に愛着するなんて変わった奴だ。
そんなことを考えているといきなり頭に血が上り、息も思考もできなくなる、……現状が掴めないとはこういう事だ。


「…かっ…は」

あろうことか、美咲の手が俺の首をギリギリと絞めている。

「お前を殺せば…お前は俺を捨てることもないし、嫌われることもない…」

「そ…」
「?」
「そ…んなこッ…と…する奴なんて…き…ら…ッいだ…っ」

殺されそうになって、分かるなんて不快だ。だけどお前は俺に 必死に何かを伝えようとしたんだろ?


"愛して"


ただそれだけの言葉に行き届かない、迷子の猫。
こいつの愛情表現が少し違うだけなんだ。

首を絞める手がゆるむと美咲はさっきよりも苦しんだ顔で。

俺が言いたいことが伝わらない。違うから、本当に嫌ったんじゃない。

「みさ…」

手を伸ばすがその手はバシッとはたかれた。




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あきゅろす。
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