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トライアングル



翔吾


芳人に強引に連れて行かれた屋上はカオスな空間になっていた。

目の前では三人分はあろうかという大量の食糧を無言で頬張る後藤がおり、その隣で真っ青な顔をしながら準太がビクビク震えている。

そしておれの右隣では、芳人が何故か城島の膝に乗っかって弁当を食べている。

「……黒いおにぎりって初めて見た」

「のりだと思って食べれば大丈夫ですよ」

大丈夫じゃない!それはどうみても危険な色だ。

しかし、芳人の手にあるおにぎりは城島の口の中に放り込まれた。可哀想に……あ、でもあーんしてほしいと言ったのは城島なのだから自業自得なのか。

真っ青になっている城島とそんな彼を余所に自ら作った真っ黒おにぎりを普通の顔で食べる芳人。お前、実は最強なんじゃないか?

「メガネ君は買い弁なんだねー」

そして、何故おれの隣にこの人が居るんだろう。余りもの同士仕方が無いのかもしれないけど。

「朝霧さんはそれしか食べないんですか?」

彼の手にあるのはチーズがひとかけらだけ。

「うん。おなか減ってないし」

「駄目ですよ。もっと食べないと」

線の細い彼の身体を見て心配になる。そういえば、他の二人と違いこの人が喧嘩をするという噂は聞いた事が無かった。

恐らく人を殴った事も無いだろう。とても真っ白で綺麗な手をしている。

「パン半分こしましょう」

おれは自分が食べていたカレーパンの半分を彼に手渡す。

「ありがとう。意外と優しいね、メガネ君」

「蝶野です」

「そう。メガネ君は料理とかしないの?」

この野郎。わざとか。

「しないですね。あまり得意じゃないですし……芳人ほどじゃないですが」

「あれ、どうみても兵器だよね。しーちゃんカワイソウ。あ、でも愛妻弁当だから嬉しいのかな」

「おれだったら愛する妻でもあの料理は食べられません」

「だよねー」

あれ?おれ普通に会話してる……まぁ、この人はあの二人に比べて怖くないし、害もなさそうだからいいけど。

「ごちそうさま」

「四分の一も食べてないじゃないですか」

「だってもう胃に入らないんだもの。メガネ君食べて」

「男子高校生がパンを一個食べきれないなんてどんな身体してるんですか?」

「気になる?なら夜におれの部屋遊びにこない?」

「遠慮します」

「つれないのぅ」

朝霧さんはそう言ってクスクス笑った。本当によく笑う人だ。可愛いけど。

って、何考えてんだおれ!?

「どうしたの?喉にカレー詰まった?」

顔真っ赤だよ、と言われてもおれは何も言い返す事が出来なかった。

「明日は何パンがいいですか?」

「んーそうだな……って明日も来るの?」

「芳人達がいますからね」

どうせ無理にでも連れてこられそうですから、と答えると彼はしばらく考えて。

「アップルパイ」

と答えた。

「あっぷるぱい、ですか」

「うん。果物が好きなんだ。だめ?」

「わかりました。アップルパイ買ってきますね」

わーいと無邪気に笑った彼を見て、明日の昼休みが楽しみだって思ったのは気のせいって事にしておこう。


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あきゅろす。
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