ぼくはねこ
2.
「ルナ、あんたまたついて来るの?本当に邪魔ね」
「ご、ごめんなさい」
さっきからすれちがった娘から何度もルナに吐かれるこの言葉…
その通りだから何も言い返せない。
「それじゃ行ってくるよ。私が留守の間はマイ、お前が女をまとめるんだよ」
「はい、エマおばさん」
それから猫族一行は1時間ほど馬車に乗ってジューンのお屋敷に向った。
「わぁぁ、すごい」
ジューン様のお屋敷は今までのどの人間のお屋敷より大きかった。
この間マツリ姉さんを嫁にした人間のお屋敷もこんなに大きくなかった。
中に入ると迷路みたいにお部屋がたくさんある。
廊下には沢山の外国の珍しい置物があった。
「綺麗…」
皆が口々にそう言う。
それほどの豪邸なのだ。
少し歩いて他のより大きめな扉の前についた。
綺麗に装飾も施されている。
「この中にジューン様がおられる。絶対に失礼のないようにね」
「「はい」」
ギーっと重そうな音を立てて開いたドアの向こうにいたのは逞しい青年だった。
ルナ達が普段住んでいる家より大きいかもしれないその部屋では、はっきりとは見えないが、ゆっくりとその人がこちらに向かって歩いてくる。
(噂どおり綺麗な人だ)
「ジューン様。このたびは猫を選んで下さいありがとうございます。14〜18の娘を連れて来ました。」
エマが先頭に立ち、深々と頭を下げる。
「ほう、若いな。28の私はおじさんだな」
娘達は頬を染めながらクスクス笑った。
ジューンは軽く冗談を言い、その場を一瞬で和やかにしたのだ。
皆で話をしているとエマが女達に先に風呂に入るよう言った。
ルナもついて行くわけにもいかず、エマの後ろに隠れた。
今、部屋の中にはジューンとエマとルナの3人だけ。
「ん?君は行かないのかい?」
「あ、えっ、と」
喋り掛けられるなんて思ってもいなかったので真っ赤になってしまう。
「この子は男でして、どうしても付いて来るというもんですから…よろしかったでしょうか?」
「構わないよ、名前は?」
「…ルナです」
「この子にはどんな雑用でもさせてくださってよろしいですので」
エマおばさんは背中に隠れていた僕をジューン様の方へと押しやる。
「あ、あの」
「なんて愛らしい…」
ジューンはそう言って頬を撫でる。
(あ、怖くない)
猫の習性で無意識にその手に擦り寄っていた。
「ルナっ」
エマの声で自分のしていた事に気づき、飛ぶようにしてまた背中に隠れた。
「お、お許しを」
震えながら上目遣いで見上げるその姿はまるでぬいぐるみのようだ。
不安そうにゆらゆら尻尾が揺れている。
「ふふ、可愛いものだな」
その言葉がまさか自分に向けられたものだとは思わなかったルナは俯いたまま顔を上げなかった。
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