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昏倒(万里様へ)



・神威











がたがたん。
物々しい音を立てて主人公は床に叩きつけられた。
痛みに数秒身を固くするが、やがてゆっくりと目を開ける。
何事か。
主人公にはまだ状況が把握できていなかった。

「…っ、?」

主人公は被さっている物、いや人影を触ってみる。
自分より二周りほど大きいそれは、肘と腕に力を込めて突っ張ることで辛うじて自分との距離を保っていた。

「か、…むいくん…?」

転んだところに巻き込まれたという感じではなかった。
いきなり体重が圧し掛かってきて、耐えられなくなった主人公は床に崩れ落ちた。
圧し掛かってきた本人の顔を、心配かつ怪訝そうに覗きこむ。

「…、主人公」

やや熱っぽく名前を呼ばれて主人公を身を固くした。
なんだかいつもの彼とは少し様子が違うような気がした。

「ど、どうしたの…?」

小さい声で恐る恐る主人公は訊ねた。
顔が近い。

「…」

どさっと被さるように主人公の囲いが狭くなった。
首筋に神威の髪が擦れる。
主人公はさらに身を固くした。

「……っ、は」

苦しげに吐き出された熱い息が主人公の耳にかさる。
荒い呼吸が触れた体温越しに伝わってくる。
この人いったい何してるんだろう。

「か、神威くん大丈夫…?すごく苦しそうだけれど…」
「……」

主人公の質問に、神威は否定をしなかった。
ということは今、彼はすごく苦しいと言うことだろうか。

「神威くん…?もしかして具合悪いの?」
「……」
「ら、楽にしていいよ!」

主人公は慌てて神威の背中をさすった。
やっとどういうことなのか分かった。
微かにだが、安堵するような雰囲気が伝わってくる。

「ずっと無理してたの…?」
「……ぅ」
「神威くん…、あの、もう大丈夫だからね」

正直この体勢のまま何をしたらいいか主人公は分からなかった。
しかし、とりあえず気を楽にさせてあげたかった。

「倒れるくらい我慢しなくても…」

そう主人公は言いかけて、やめた。
神威のことだから、きっと人前では中々弱音も弱いところも見せたくなかったのだろう。
それにわざわざ質問して、しんどい今返答をさせるのも可哀想かもしれない。
主人公はもう質問の類はしないことにした。

「な、なんとか運んでみるよ…。神威くん、少しどいて」
「……いやだ」
「え…」
「…主人公」

どくどころか、神威は全く離れようとしなかった。
主人公は身をよじってみるが、逆に痛いくらいしがみつかれる。
具合が悪いはずなのに。
とりあえず、諭すように頭を撫でてあげる。

「きっと熱があるんだよ神威くん…」
「…主人公」
「こんなことして正気に戻ったとき怒らないでね…」
「…主人公、…主人公」
「…神威くん…」

甘えるように名前を何度も呼ばれる。
普段なら想像できない。

「…ここで寝たいの?」

少しだけ、頷いたような気配が感じられた。
ふっと息を漏らし、仕方なく主人公はいいよと呟いた。
力が抜けたように、さらに体重が重くなる。
主人公は当然苦しいのだが、今は我慢せざるを得ない。
きっと神威は今の今までずっと具合が悪いのを我慢していたのだろう。

「意地っ張りだなぁ…」











昏倒




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