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gift
Filled with you(桃瀬様へ)



・神威












彼の体温は、私よりいつも若干低い。
けど今は私以上に熱を孕んだ手、頬、そして瞳。


この状況は、意図せず私が作り出してしまったのだ。



















始まりは一本の酒瓶、ワインを私が成り行きで手にいれたことから始まる。


ちょっとしたお店で、私もことをなぜかいたく気にいってくれた人がいた。
その人が『うまいから』と連呼しながら私にワインを押し付けてきたのだった。
きっと酔っていたのだろう。


しかし、困ったことに私にはお酒の味はまだ分からない。
今のところ飲みたいという願望もなかった。

そこで、私は誰かにこれをプレゼントすることにした。



そして、その『誰か』には神威さんが選ばれた。
昴流さん、という選択肢もあったのだけれど、なんだか昴流さんにお酒を無理に飲ますのは罪悪感を感じるので、断念したのである。





















神威さんは初めプレゼントだ、と言っても中々受け取ってくれなかった。
きっと吸血鬼の彼は人間の嗜好品などに興味はないのだろう。
けど、せっかく貰ったのに誰も飲まないのは失礼な気がして私は食い下がった。


『おいしいらしいです』
『とてもおいしいらしいです』
『是非神威さんが飲んでください』


そう何度も繰り返すうち、神威さんは心を動かした。
そして、私が注いだワインを口にし始めてくれた。
神威さんはいざ口にしてみると、なかなか気に入ってくれたようでちゃんと全部飲み干してくれた。
きっと口当たりの良い、飲みやすいワインだったんだ。






しかし、少ししてから彼に異変が起こった。
神威さんにしてはぼーっとした、熱っぽい表情になり始めた。
酔っちゃったかな?と思い水を汲んできてあげたけれど、まったく飲もうとしてくれなかった。

「神威さん、お水飲まないと…」
「…いやだ」
「でもちょっと薄めないと」
「……水、は」
「水はいやですか?なにがいいですか?」
「……血」
「…。」

神威さんは私の首筋をじっと見つめた。
私は咄嗟に逃げようとしたけれど、すぐに神威さんに強い力で腕を掴まれた。

「いたっ…神威さん、ちょっと力強いです…!」
「…にげないか?」
「に、逃げません」

そう言いつつ、腕の力が弱まった瞬間、私は扉に向かって走った。
しかしあと少し、という所で私は床に倒れこんでいた。
私は簡単に神威さんに転がされた。




いくら私が神威さんにとって気に入らないことをしたからって、普段はここまで乱暴なことはしない。
しかし酔っ払った今の神威さんは、したいようにする、やりたいようにふるまう、そんな状態らしい。


もう逃げ出す気はなかったけれど、神威さんが私に圧し掛かって組み敷いてきたので、本当にまったく動けなくなった。

「…にげないっていった…」
「ご、ごめんなさい。もう逃げませんっ」
「…。」
「ごめんね、もう絶対逃げない。神威さんのところにいるね」
「…ん」

不機嫌そうな目で私を見下ろしていた神威さんは、やっとさっきまでのぼうっとした表情に戻った。
…今の神威さんはそおっと扱わないと。
私はまるで眠っている猛獣のそばを起こさないようにこわごわ移動している気分だった。

「…主人公の、血がほしい」
「うん、いいよ。でも少しだけね?いっぱい飲んだらだめだよ?」
「…。」
「少しね…少し…」

私は神威さんに対し、いつもなら絶対使わない諭すような口調で話しかけた。
そしてゆっくり神威さんの口元を自分の首筋に導いた。



ざくっ、という感覚と共に、熱い痛みが襲ってくる。
けっこう手加減なしで噛まれたようだった。
耳元を神威さんの吐くぬるい息がなぜる。





なんだか、肩がびちゃびちゃする。
少し私もぼうっとしてきた。
私が想像していたよりずっと血が溢れているようだった。
神威さんが一瞬顔をあげた時に覗きこむと、口の端から血がつたっていた。
…いつも神威さんが私の血を飲むときはなるべく優しく噛んで、流れ出た血は無駄にならないよう、丁寧に舐めあげてくれる。
けれど、今の神威さんはまるで獣みたいに私の血を求めている。けっこう汚い飲み方だ。
酔っているから、抑制がはずれてしまっているんだろか。
今はひたすら血を求める吸血鬼だ。

「あっ…っ!」

神威さんはもう一度私に深く噛みついた。
これ以上の出血はさすがにまずいだろう。

「か、神威さん…っ、もうおしまい…!」
「まだ…主人公…」
「これ以上は……、痛いっ!」

今度は首に噛みついたようだった。
どくどく溢れる血液を感じて、私はぞっとした。

「神威さん、もうだめ!いいかげんに…っ!」
「…。」
「いや…痛い…よ…!」
「主人公…」
「だめ、死んじゃうよお……」

私が涙を流すと、やっと神威さんは少し我に返ったようだった。
神威さんは血の味を楽しむためじゃなく、出血を止めるために傷口を舐め始めた。

私が神威さんの背中に手を回すと、そっと何度も頭を撫でてくれた。




涙がなかなか止まらない私を、今度は神威さんがあやしてくれた。

私はそんな中貧血を起こしたのか、そのまま眠ってしまった…。
























「か…むい……さ…」

うっすら寝言を呟く主人公に神威は優しく触れた。
酔いは少し醒めてきたようだった。
主人公の傷口はまだ少し赤いが、出血は止まったようだった。

「…お前は馬鹿だ。吸血鬼が酔っているところに血を与えるなんて」
「…ん…いたあっ……いです」
「…自業自得だ。」
「あ…ひど…い…よ…」
「…。」
「すき……ですから…もうすこしやさしく…うぅっ」
「…。」

神威は少し目を丸くした。
主人公は今だ夢の中でも噛まれ続け、やめてくれることを自分にせがんでいるようだ。
ここまでうなされていると、少し可哀想になってきた。
……けれど。






すき。






そんな言葉が聞けるなら、これからはもう少し乱暴に血を頂こうかと、神威はふっと考えた。



















Filled with you
















君で潤う至福のひと時を















あとがき

桃瀬様、お待たせしました^^!
神威夢です〜!
どうでしょうか;
吸血鬼ってことを押してみました。
題名は『君で満たされる』みたいな意味です。


それではこれからもよろしくお願いします!!



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