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まったりまったり(深歌様へ)



・昴流?

・ギャグ?

・現代ネタ











何故こんなことに…。



湯気で濡れたTシャツの裾が張り付いて、ちょっとわずらわしい。
主人公は膝を抱えて小さくなりながら、懐の石鹸を抱えなおした。



主人公はスキーサークルに入っている。
スキーと銘打っているが、ウィンタースポーツならなんでもやるし、雪合戦やそり遊びだってする。
そこそこ人数もいるサークルなのだけれど…、冬以外のシーズンは極めて暇をしている集まりである。
けれど、それではあまりにまとまりがなさすぎるということで、リーダーが提案したのが夏合宿だった。
合宿といっても、リーダーの親戚が経営する旅館に皆で売り上げ貢献を兼ねて泊まりにいこうというものだった。
温泉もあるし、ご飯もおいしいし、値段も格安!ということで、サークルのメンバーの殆どが参加したのだった。
人数は男女合わせて十人ほどで、大部屋を二つ借りて、男女で部屋をわける…。
そんなところだった。
…しかし、こんなことになろうとは…。






リーダーは最年長組に入る侑子先輩なのだが。
夕飯時をすぎた頃、ちょいちょいと手招きをされたのだ。
私ともう一人…サクラちゃんは、卓球でもしようかと話していたのだが、呼び止められたことで立ち止まった。
どうしたのかと寄ってみると、旅館で扱うデザートを試食してほしいとのことだった。
勿論、私たちは嬉々としてその品々を口にした。
チョコレートムース、フルーツのシャーベット、白玉あんみつ…。
ごちそうさまでした!と礼を言ったところ、それじゃあ代わりに風呂掃除を引き受けてくれと頼まれてしまったのだった…。
ちゃっかりした侑子先輩らしいし、おいしいデザートがたくさん食べられたのだ。
うう、それまではまだ良しとしよう…。






私が男湯の掃除、サクラちゃんが女湯の掃除となった。
勿論、素人に全部をやらせるわけではなく、散らかされてしまった脱衣場の洗面台を磨いたり、お風呂用具を整えてほしいという簡単なものだった。
あのデザートたちのお礼なら、私もサクラちゃんも文句を言うはずもなかったのだが…。
…ま、まさか誰か入ってくるなんて!
露天風呂は改装中らしく、普通の大浴場の入浴時間は限られている。
いつもなら午後十時くらいまで開けていることもあるそうだが…。
今回は殆ど私たちのためにリーダーが貸切ってくれたようなもので、他のお客さんは、今日はご飯を食べに来たり、お風呂に浸かりに来るお客さんだけらしい。
つまり泊まりの客は私たちだけらしいので、早めにお風呂を閉めてしまうとのことだった。
…ことだった、のだが…。






人が入ってきてしまった!
もう終わりだと聞いていたのに…。
もしかしたら、従業員の方が、最後だからとお湯をもらいに来たのだろうか?
それとも、侑子先輩だったらそんなの気にせず掃除していたのだろうか?
それとも、侑子先輩による何かのいたずらなのか!?
どれもありえそうだけれど。

「……、…」

小さかったが、湯気に驚く声が響いた。
そう、入ってきたのは同じサークルの仲間だった。

「……」

……。
昴流くんだ…。
一人で入りに来たのだろうか?
……。
………しまった!私がのれんを片づけるのを忘れていたんだ!
一番最初にやっておくべきだった!

「…、…?」

大浴場だから、小さい声でもよく響く。
何となく盗み聞いているような気がして、主人公はかーっと頬を赤くした。
当たり前だが、か、彼は今すっぽんぽんなのだ!

「あ、せっけん…」

昴流はどうやら、自分の手にしているタオルや洗面用具を探っているようだが、…もしや雰囲気からしてボディソープを忘れてしまったのだろうか。
ちゃんと浴場にも、石鹸やシャンプーは置かれている。
しかし、石鹸のいくつかは主人公が抱えているのだ。
探すようなそぶりで、昴流がこちらに歩いてくる!
……、…。

「……あ、誰かいらした…」
「はい、石鹸」
「ん?あ、どうもありがとう」
「それじゃ」
「……えっ!?君、主人公…」
「わー、ごめんなさいー!!」

主人公は抱えていた石鹸をぶちまけながら謝った。
大きな瞳をまん丸くして、昴流はあっけにとられている。

「君…こんなところで何をして…」
「実は…実は…その…」

一瞬、驚き羞恥していた昴流だが、徐々に怪訝そうな表情になる。
主人公は咄嗟に口からでまかせを飛び出させた。

「私はー、えっと、実は女湯で石鹸を切らしてしまったから貰いに…」
「……」

い、いくら優しい昴流くんでも、こんな言い訳を信じるだろうか?
いや、どう考えても無理がある。

「……そうなの?」
「わー!ごめんなさい嘘ですー!」

信じようとしてくれているのかどうなのか、困惑気な瞳で昴流くんは私を見つめた。
しまった、素直に言えばきっと怒る人じゃないのに…。
主人公はまた泣きべそをかきそうになりながら謝った。

「服、着たままだね…?」
「あ、あう…けして、覗こうとかは考えてなくて、その…」
「?」
「実は掃除を頼まれて…皆がお風呂に入っていい時間すぎてから来るって知らなかったから…。ミスでのれんもそのままにしちゃって…」

主人公はようやく神妙に、つらつらと本当のことを話したのだった。
すると、今度はようやく昴流も納得した様子で、大きく頷いた。

「ごめんね、僕たちも遅くなってから入りに来てしまったから…」
「僕…たち?」
「うん、皆はお風呂上りに飲むコーヒー牛乳を買いに行ったけれど、そろそろ来るころだと思うよ」
「え……」

慌てて脱衣場のほうに耳を澄ますと…、僅かながらがやがやとまとまった人数の声が聞こえてきた!
しまった、さっさと逃げておけば…。

「事情を話したら、皆もきっと…」
「えーん、でも皆にからかわれるし…恥ずかしいよー!」
「そっか…。ならとりあえず、服を脱いで。お風呂に入っている人になりすましたらどうかな?」
「ええ?無理ないかな…」

先ほど、自分とて無理のある言い訳をしたことを忘れ、昴流の提案に首を傾げる。
そうこうしている間にも、脱衣場の連中は、こちらへ今にも入ってこようとしている雰囲気。

「服、僕の持ってきたシャンプーとかタオルで隠せば大丈夫」
「…うん、わかったよ…」

天然ゆえなのか、穏やかなれど有無をいわせぬ昴流の様子に、主人公は仕方なく頷いた。
浅い湯船だが、湯気があれば何とか誤魔化せなくもない。
普通にタイルの上にいたら、隅っこに隠れていても昴流に見つかったのだ。
大人数が入ってくるとなれば、発見されないわけもないだろう。
ならいっそ、姿は見えていても、誤魔化した方がいいかもしれない。
タオル、布などを浴槽に入れるのはマナー違反なので、主人公はいそいそとTシャツとジャージ、それから…もちろん下着もそっと外した。
丁度持参していたヘアゴムで、髪を高くまとめると、…まあこの湯気ならショートヘアに見えなくもない。

「じゃあ、あっちの湯船がいいかな?」
「うん…。バレそうになったらフォローしてね」
「わかった」

見ているようで見ていないのか、けろりとした昴流の視線に背をむけつつ、離れたところにある湯船につかった。
背を向けて堂々としていれば、案外気が付かれないかもしれない。

「へえ、結構大きい浴場なんだ」

……!
ちょっと高めの大きい声。四月一日くんだ。
主人公はぎくりと背筋を伸ばした。

「露天風呂が改装中で残念だけれど、それは明日の昼間、別のところに行ってみようか」

落ち着いているけれど、少年らしい声。
続いてきたのは小狼くん。

「わー、広いなー。泳げるかなー?」

みょーんと伸びるようなふわふわの声。
一個年上のファイ先輩だ。

「…昴流、先に入っていたのか」
「うん、といっても、ほんの数分前だけれどね」

で、最後に同学年の神威くん…。
うう、皆ああみえて結構真面目だから、余計に出ていきづらいな…。

「ねえねえー女の子たちも、おれたちみたいに皆でお風呂に入ってるのかなー」
「そうかもしれないですね」

今話しているファイ先輩と小狼くんは留学生なのだ。
こういう大浴場は、ちょっと珍しかったりするのだろうか。

「こういう合宿とかって、女湯覗いたりとかっていうシーン、お話の中でよくあるよねー」
「ええー!ファイ先輩、そ、それはマズイですよ!」
「…って、真っ先に大きな声上げた四月一日くんも、実は興味あるくせにーこのこの」
「い、イヤ、俺は…」
「だめですよ、二人とも。いくらなんでもこの歳じゃ、いたずらで済むかどうか…」
「そ、そうっすよファイ先輩!知らない人が入ってたら、尚更ですし!」
「ちぇー」

くすり。
と思わず主人公の口元には笑みが浮かんでいた。
このサークルの面々は、結構しっかりした人ばかりかと思っていたけれど、意外と歳相応な会話もしているんだな、男衆だけの時は。

「ねえねえ、誰が一番スゴいかなー。やっぱり侑子さんかなー」
「ぶっ!!」

なおも続くファイ先輩のトークに、四月一日くんはペースにのまれて反応している。
小狼くん、四月一日くん。それから昴流くんに神威くん。
そんでもって女の子のサクラちゃんも、どちらかといえば真面目な人たちなのだけれど…。
先輩であるファイ先輩と侑子先輩は、ちょっとお茶目なのだ。

「あ、そうだー。神威くんと小狼くんで、ちょっと見てくるのはどうかな。二人なら身軽だし、何だかお姉さん方に可愛がってもらえそうだしー」
「む、無理です!」
「……」

主人公はごくりと喉を鳴らす。
あの二人が自分が湯に入っているところにやってきたらどうだろう。
小狼の健康的に逞しく焼けた肌と、神威の透き通るほど白い肌…。
ちょ、ちょっとだけ見ても…。
……イヤイヤ。

「って、ファイ先輩、タオルは湯船に入れちゃまずいっすよ!」
「あ、そうなんだー。おれこういうお風呂あんまり入ったことないから、ごめんね」
「俺たちの後は、もう入る人はいないって侑子先輩が言ってましたから、それほど気にしなくても大丈夫ですよ」
「そういうのがマナーなんだねー。どうりでいつもはシャイな神威くんも開放的だと思ったよー」
「……」

笑い声を立てるファイ先輩や、四月一日くんらの声が風呂場に響く。
主人公は何となくもう少し深く肩をお湯に浸からせた。

「…じろじろ見てほしくない」
「つれないなー。よぉし、おれも勇気を出して、いざ開放的になるよー!」

冷たい神威くんの返答もなんのその、雰囲気を和やかにしてくれるファイ先輩は、やっぱり面白い人だ。
ばしゃばしゃとはしゃぐ水しぶきの音を背に、主人公は黙って会話に耳を傾けていた。
すると、ふいに小狼の心配げな声が聞こえる。

「つれないと言えば、何だか昴流くん、口数が少ないね。のぼせちゃった…?」
「っえ?ううん、平気だよ」

ぎくっ。
そうか、昴流くんは私のことを気にかけて…。
主人公は焦りと心地よい湯加減にじっとり汗を伝わらせた。

「…?あっちにいる人、知り合い?」
「う、ううん!全然、全然知らない人だよ!!」

…嘘下手だなー。
必死さが伝わる昴流の声色に、主人公は苦笑した。

「あの人、僕たちが来る前からいるみたいだったよね」
「お、同じくらいに来たんじゃないかな?そ、その、た、逞しい人だよね!すごく男らしい人だよね」

いや、聞かれていないのにそんなにフォローしなくてもいいから!
するとすかさず、やはり小狼の怪訝そうな呟き。

「そう、かな?すごく華奢な人…というか、僕らよりも年下なんじゃないかな?たぶん、三つくらい…」
「え、あ、そうだね」
「うん。肩幅も小さいし…何だか、女の人みたい」

こそ…と小狼が声を潜めるが主人公にも分かったが、言おうとしたことは何となくわかる。
ううう…。

「そ、そろそろ僕は出ようかな。皆も出るでしょう?」
「…俺も出る」

早々に上がっていく神威に続いて、皆もそろそろかという雰囲気が漂い始める。
ほっ。

「あ、俺トランプ持ってきたんですけれど…皆でしますか?」
「おーいいねー。おれはねー、チェスとオセロ持ってきたよー」
「俺はお菓子たくさん作ってきたから、女性陣も呼んで遊びましょうか」

続いて小狼、ファイ、四月一日も湯から上がっていく。
ほっ。

「えと…、わああ!僕も楽しみ!皆、早く着替えていこうよ!」
「あれ、昴流くんがそんなに乗り気になってくれるなんて、珍しいね。せっかくだから、何か賭けましょうよー!」

四月一日の提案により、がやがやと話し合いを始めた皆の声が遠ざかると、やっと主人公は風呂から上がることができた。
さ、さすがに…身体がぽかぽかと火照っている…。

「うーん…」

冷たいタイルの上に腰掛け、少し一休みをする。
皆が着替え終わった頃、出て行こう…。
あぅ、掃除もしなくちゃなんだった…。






「主人公、主人公」
「うぅ?」
「のぼせちゃった?」

しばらくぼーっとしていると、呼びかける昴流の声が聞こえた。
戻ってきてくれたのだろうか。
よいしょと身体を起こそうとすると、昴流が顔をほんのり赤くするのが見えた。
そうか、まだすっぽんぽんだった…。

「服、僕の持ち物に隠してるの忘れてて…!」
「うー…ん」
「侑子さんには、僕が話しておいてあげるよ」
「ありがとう…」
「…の、のぼせちゃったんだね。とりあえず、浴衣、浴衣…!」

しばらく待っていると、脱衣場に置かれてあるのだろう、浴衣を抱えて昴流が戻ってきた。
その少しぶかぶかの浴衣を羽織らせると、昴流は少し迷うようなそぶりを見せた後、主人公の身体を抱え上げた。






「あ、昴流くん。遅かったからどうしたのかと思ったよ。今、四月一日くんが、侑子先輩たちを呼びに行ったからね」
「そっか」

あれ…小狼くんの声が聞こえる。
主人公は昴流の腕で揺られながら、半分寝ぼけて黙りこくっていた。

「あれー、どうしたのー?主人公ちゃん、寝ちゃったのを運んできたの?」
「あ、これは…」
「しかも、男の人用の浴衣着てるーブカブカだー。何だかえっちだねー」
「えっ!?こ、これは、主人公の服を勝手にいじったらいけないと思ったので…!」
「昴流くんが着せてあげたんだー」
「……昴流」

からかうファイ先輩と、あきれ混じりの神威くんの声が混じり、昴流くんが慌てるのを感じる。
ぎゅっと主人公を支える手のひらに力が込められた。

「ち、違います!変なことは絶対にしてないですよっ!ほ、ほら、疑うなら、神威が持ってて!」
「…………」






「うふふ、私を勝負事に誘うなんて、いい度胸じゃない」
「おれもトランプ久しぶりー。今日は侑子先輩もすっぽんぽんにしますからねー」

「四月一日くん、小狼くん何をして遊ぶの?」
「うーん、ババ抜き…とかだとサクラちゃん、すごく強いし、ポーカーだと侑子先輩が強くなっちゃうよねー。何かいいのある?小狼くん」
「大富豪とかはどうかな?」

「ちょ…神威、何してるの!?」
「…主人公がこうしてほしいと言っている」
「なんで!?」
「冷たくて…いいらしい」
「だからって、体中にチェスの駒置かなくても…」







(深歌様、誕生日おめでとうございます!ギャグっぽくなりましたが、プレゼント代わりにと書かせていただきました。これからもどうぞよろしくお願いします!)




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