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gift
りとるくりすます(きなこ様へ)


・X昴流

・クリスマス






「遅くなってごめんね」
「大丈夫、時間通りだよ」

仕事を終え、急いで駆けつけてくれたらしい様子に、なお機嫌は上昇する。
小洒落たレストラン前の小さな広場。
待ち合わせているカップルは他にも多数見受けられる。

「早く、早く!せっかくのディナーなんだから!男の人がエスコートしてよ!」
「う、うん」

エスコートして、というのは、先程何気なく眺めていた可愛らしいカップルの受け売りだ。
エスコートを頼んでも、結局腕を引っ張りながら前を行くのは主人公の方だったが。

「綺麗なお店だね。昴流がこういうお店の名前を控えているなんて、意外だったよ」
「あ、前に仕事でちょっと知り合って…」

少し大きめの、雪山のロッジのような建物。
クリスマス色に染められている雰囲気は、このレストランに良く似合っている。
こんな可愛らしいレストランを昴流が今日という日に予約してくれたことは、やはり紛れもなく意外で、嬉しい。
勝手が分からず戸惑いながらも、気さくな店員さんに案内されて予約をとる昴流の姿が目に浮かぶ。
カランカランと、淵に取り付けられた小さな金色の鐘を鳴らしながら意気揚々と入店した。

「いらっしゃいませ」
「あの、予約を取っているものですけれど」
「はい、お名前を…」

昴流がやはりちょっと慣れない仕草で予約の確認を取っている間、主人公はやはりクリスマスと恋人ムードなレストランの中を眺める。
家族連れも居るようで、小さい女の子が行儀良くスプーンでシチューを口に運んでいる姿も見受けられた。
自宅での催しならば七面鳥にでもかぶりついて頂いていたところだけれど、少しは昴流やこの可愛らしい女の子を見習って大人してみるかと、心に決めた。

「主人公、案内してくれるって」
「うん!」

連れて行かれた席はレストランの吹き抜けている二階の席だった。
窓からは先程のイルミネーションが輝く広場が見える。

「いい席、予約取れたんだね」
「ちょっと仕事のツテがあったから」

昴流は少し得意げに笑った。
主人公の方はと言うと、いたくこのレストランが気に入った様子で、料理が運ばれるのを今か今かと待ち構えている。

「主人公はイベントが好きだね」
「私が、というよりは、女の子の殆んどが好きだと思うよ」

窓ガラスにはスノースプレーのアートも飾られている。
主人公は、はーっと息を吹きかけると、白い吐息の後にスノースプレーを真似て指先で絵を描いてみる。

「これ、昴流」
「…僕、そんななの?」

てるてる坊主のような絵に、昴流は少し怪訝そうに首を傾げた。
主人公にしてみれば、愛嬌があって頭が丸い所がそっくりだと思うのだけれど。

「なら、昴流も描いてみて」
「……」

昴流は少し迷うようなそぶりを見せたが、主人公に倣い、指先で窓ガラスをなぞった。
いやに真剣に描いている様子で、料理他を運んできた店員にそんな子供染みた姿を見られてしまったわけだが。
本人はそれでも気にならないほど熱中しているようだった。

「随分、真剣に描いてたね。それ、何?」
「主人公」
「…その魚人みたいなのが?」
「違う!これはサンタさんの服を描こうと思って…」
「…じゃあこれがスカートで、これが足?」
「違うよ、これは頭で、それはヒゲ」
「ヒゲ!?」

昴流の独特な感性というか、画才の音痴というべきなのか。
料理に手を付け始めながらも、昴流は満足そうに微笑んだ。
主人公は少し、いやかなり首を傾げたが、とりあえずクリスマス仕様なディナーに舌鼓みを打った。

「…主人公は本当においしそうに食べるね」
「昴流も、偏食気味なんだから今夜は残さず食べてね」
「うん…。あ、乾杯しようか。せっかくのクリスマスだからね」

薄く淡い色のシャンパンが注がれたグラスを、促すように昴流は持ち上げた。
主人公も慌ててナイフとフォークからグラスに持ち帰ると、互いに軽く掲げた。

「乾杯、だね」
「うん、乾杯!」

細いスタイルの繊細なグラスが、澄んだ音を響かせてシャンパンを揺らした。
銀色にも金色にも見える綺麗な液体が、主人公の心を弾ませた。

「主人公、化粧したの?」
「え!?」
「今、気付いたから…」
「…わ、私だってレストランに行く時くらい…!…ちょっとだけ、したよ。…似合わない?」
「いつもと違う化粧の仕方だから。こっちの方が、主人公らしくて可愛いよ」
「…うん、ありがと」

照れを隠すように主人公は前髪を指先で直した。
いつもは鈍い昴流が、何気なく気がついてくれたことが嬉しく、こっそりとにやける。

「主人公、チョコレートのケーキだよ、好きでしょう?いちご欲しいなら、僕のもあげるよ」
「……もう、せっかく昴流が素敵だなって恍惚に浸ってたのに」

濃いチョコレートで創作されたケーキの上の小さい赤い果実を指差しながら、昴流はにこにことして指差した。
答えを聞く前に、はいどうぞ、などといって、お洒落のためかわざと残してあるヘタの部分を摘みあげ、主人公のケーキの上に置いた。

「…ありがとう」
「うん、主人公の食べてるときの顔、好きだから」

食べてね、と笑う昴流は、顔立ちはどちらかといえば大人っぽいのに、子供らしい表情を覗かせる。
ふっと力を抜いた後、主人公もそれに負けないくらい無邪気な笑みを浮かべ、チョコレートケーキを頬張り始めた。

「メリークリスマス、主人公」











あとがき

ベタというか、何というか。
面白みは少ないかもしれませんが、クリスマス仕様になるよう頑張ってみました!
素敵な小説、きなねえさんもありがとうございました!
メリークリスマスです!




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あきゅろす。
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