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この会場に足を踏み入れたお客様は(きなこ様へ)


・神威

・神威視点

・アーティストネタ











摩天楼そびえるこの町並み。
夜こそ煌びやかであり、物々しくもある雰囲気が立ち込めるこの町だが、昼間はいたって普通のビジネス街。
スーツ姿のサラリーマンがカフェで軽食を摘んでいる場面もあれば、ブティックに出入りする数人固まった女性の姿もある。
自分が立ち寄ろうとしたのは、このビル郡の中でも少しこじんまりとした二十階立てほどのビル。
どこかの会社がオフィスとして使用しているものではない。
一階はカフェ、二階から十階まではイベント会場に使われることが多く、十一階から十八階までは事務に使われている。
十九階から最上階までには少々高級なレストランと展望台が位置している。
小さいとはいってもビルはビル。
高さもそれなりだし立地も良く、良く晴れた日には町並みから海までが見渡せる。
いわゆるお気に入りの場所だった。






だから、ここに足を踏み入れたのも気まぐれだった。
二階で開かれている展覧会。
真っ白い壁にいくつもの額縁に入れられた絵が飾ってある。
そして申し訳程度にポスターも宣伝がてら貼られている。
女性の画家らしい。ポスターの隅に顔写真が小さく載っている。
表情を作ることなどなれていないのだろう、うつむきがちに笑っている写真。
この歳で自分の展覧会が開けるとは、その道ではそこそこ名が売れているか、金持ちの生まれなのだろう。
『二十歳の鬼才』『奇想幻想のアート』と銘打ってある。
しかし名前を見てもピンとこない。
どうやらお嬢様の道楽だったらしい。

「……」

絵のことなど何も知らないが、自分の目から見て、これはとうてい素敵なものには思えなかった。
不気味、奇妙。
クレヨンを書き殴ったらくがきのような絵もあれば、微々たる所まで念入りに描かれた人体断面図のようなものまである。
けれど、これは芸術じゃない。そうは思えない。
人体の模写が上手いなら教科書の挿絵師にでもなればいい。

「見に来てくださって、ありがとうございます」

その言葉はおそらく自分に向けられたものだった。
この時間、この展覧会の会場に、客は自分一人だけだった。
その声に何となくちらりと視線を向けると、あのポスターに小さく載っていた顔が立っていた。
清楚でシンプルなワンピースに身を包み、そのせいか二十歳という年齢より幼く見える。
それだけでなく、顔も幼く手足も小さい。
こんな女がこの絵を描いたというならば、にわかには信じがたい。

「若い人が見に来てくれて嬉しいです。飾られている絵を描きました、主人公と申します」
「……」
「あれ?どこかで会ったことありましたか?」
「ない」
「……?そうですか」
「不気味だ」
「私の絵ですか?…そっか、君にはそう見えるんだね」

勝手に一人で納得したように主人公と名乗った女は頷く。
変わり者。
芸術家やアーティスト。そんな職業の連中なら珍しくもないだろう。

「この人体断面図はですね、全部私のデタラメで描いたんです」
「……」
「ほら、脳みそが胸の部分にあるでしょう。舌も鼻の部分にある」
「……」
「なんだか奥深く感じません?」

主人公は満足したように軽く笑い声を立てた。
だが、やっぱりこの絵が不気味だという評価は変わらなかった。

「それからこの絵はですねー…。赤ちゃんをテーマにしているのです。虐待や中絶に対する、抵抗、批判、恐怖…」

真っ赤な背景に、真っ赤なドレスを着た美しい少女。
倦怠な様子の彼女がこちらを見つめている。
そして、その少女に抱かれた、人形の赤ん坊。
人形といっても、あれはいわゆるマリオネットというやつだ。
操られるためとはいえ、剥き出しの球体間接やぽっかり機械的に開いた口がやはり不気味だ。

「彼女はね、子供ができることの意味を分かっていないの」
「……」
「でも子供を作る身体の機関は備わっていて、そうしてみることにも興味があるけれど、彼女はどこか赤ん坊という存在を…」
「頭がおかしい」
「褒めてくれてありがとう。それでね、彼女はまだ赤ん坊にたいして不気味、怖いという思いを抱いているの。未熟なの。赤ちゃんは可愛いのに」
「……」
「でもね、この赤い色は胎内を表していて、この人形の赤ちゃんは、確かに少女のお腹の中に…」
「…いやらしい」
「え?」
「こんな顔してもう子供ができるような体験をしているのか」
「…ふーむ、その考え方も、男性ならではなのかもね。ちょっと参考になったよ」

延々と語る彼女の横顔をしばらく見つめていたが、そろそろ自信の仕事場に戻らなければならない。
それなりに有意義な体験ができた。
充分満ちたり、踵を返すことにする。

「あ、君…」
「…」
「思い出した!君、テレビに出てた!」
「……」
「か、歌手の人でしょ!?あの変な歌を書いたりしている人でしょ?え、えーっと名前は…。うわーイケメンだね、君!いくつ?歳いくつ?」
「十九歳」
「十九!ほほう、五つもぼうやだね」
「…二十歳じゃなかったのか」
「客寄せのためなんだってさ!本当は二十四歳。童顔だからばれないだろうって」
「……俺はもう行く」
「あの歌の歌詞考えてるの、君でしょう?君って変わり者だね。私、君のこととんでもないスケベか、セックスが気持ちよく思えないタイプの人かと思ってた」
「……そうかもしれない」
「そうだって!」

自分のほうが歳上だと分かったからか、饒舌に捲くし立て始めた。
大分興奮しているらしく、機嫌良さげに軽く踊りまわっていた。

「やっぱり、君の周りの人も、君みたいに変わり者が多いの?」
「…ああ」
「なるほど…!」
「けれど」
「?」
「俺より頭のおかしいやつに会ったのは久しぶりだった」

昼時を過ぎたからか、この会場にもちらほらと客の足が見え始めた。
常連なのだろうと思える人影も見えないこともない。
主人公の絵が気に入るような輩なのだ。そいつらもどうせ頭がおかしい。
けれど、頭がおかしいと形容されるということは、それが良いことにしろ、悪いことにしろ、ある観点が人より飛びぬけているということなのだ。
『俺より頭のおかしいやつに会ったのは久しぶりだった』。
もちろん彼女は、この言葉を賞賛として受け取った。






(あまり甘くない上に夢小説っぽくなくなってしまいましたが…!きなねえさんお誕生日おめでとう!)


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