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にぎりにぎり(杞憂様へ)



・X昴流

・同居











「けほ、けほっ」

朝、起きなければいけない時間。
喉の調子が良くない。
頭も心なしか少し重たい。
今日は体調が優れないようだ。
上半身だけ起こして、主人公は軽く咳き込んだ。
風邪をひいてしまったらしい。

「…主人公?」

隣で声がした。
そちらに目をやると、同じく起きたらしい昴流が心配気に見つめていた。

「ごめんね、起こしちゃった?」
「ううん。…主人公、具合悪いの?」
「ちょっと……けほっ」

起きたばかりで喉が渇いているということもあるのか、喋ると少しつらい。
熱があるわけではないようだけれど。

「主人公、今日は寝てたほうがいいよ」
「うん…。少し…ご飯だけ作ったら…」
「だめ、寝てなきゃ」

制するように、昴流は少し強めの口調で言った。
その様子に、主人公も大人しく頷く。

「…ご飯、どうする?」
「僕でよかったら、主人公の分も作るよ」
「そっか。お米はタイマーでそろそろ炊けてると思うから…あとは適当に冷蔵庫の物を使ってね」
「わかった」

昴流は横になった主人公の身体にそっと布団を被せると、ベッドから足をおろした。
……。
…昴流が料理。
作っているところ、調理作業をしているところは、今のところは殆んど見たことはない。
……。
主人公はちょっと不安になって、昴流が部屋を出る寸前に声をかけた。

「昴流、梅干とか、昆布とかあるから、おにぎりでいいよ」
「うん、わかった」











昴流の優しさに甘えることにした主人公は、大人しくベッドで休んでいた。
何分かしたら、きっと昴流が部屋に朝食を運んできてくれることだろう。
パンの買い置きでもあれば、それをかじればいいことろだったが、あいにく切れている。
昴流は小器用だし、きっと上手くやってくれる。



カラン、カラーン。



缶のようなものが、床を転がる音がした。
何か落としてしまったのだろうか。
…まあ、大丈夫だろう。



ウウウウウイィーン。



……掃除機?
何かこぼしてしまったのだろうか。
調理中にわざわざ掃除器具を取り出さなければならないほど。
……。
………大丈夫かな?



とっとっとっと。



……足音。
調理が終わったのだろうか。
こちらに向かってくる足音がする。
待ち時間、およそ三十分。
……。











「できたよ」

昴流が調理した完成品を、ベッド脇の小さいテーブルの上に置いてくれた。
その造形に、主人公は目を見開いた。

「……これは?」

米でできた不思議なモニュメントが、お皿の上にどっかり置かれていた。
二つほど。
形は…、なんと言ったらいいだろう。
例えるなら、公園の砂場や浜辺やらでよく子供が作っている、山だ。
米でできた山に、数枚の海苔が貼り付けられたものが、皿の上に乗っている。

「……おにぎり?」

昴流自身も少し違うな、と思っているらしい。
疑問符付きで答えた。

「これ…、どうやって作ったの?」
「えっと、まず、どうやって具を中にいれるのかよく分からなくてね…まな板の上でやったんだ」

……。
彼の言う『おにぎり』の製作過程はこうだ。
まず、まな板の上に炊けた米をたくさん敷く。
その広げられた米の中心に、具をぽとりと置く。
後は先ほども述べた砂山のごとく、米を慎重に具の上へ上へと盛り上げていく。
これで具は完璧に米に包まれたことになる。
ぺしぺしと手のひらで軽く米の山の表面を叩き、形を整える。
海苔を貼り付けて、完成。
……以上だそうだ。

「形を崩さないようにお皿に乗せるのが大変でね…。ちょっと海苔が小さかったかな?」

海苔は山のてっぺんに貼り付けられている。
さながら、富士山に積もった雪のように、鉛筆の尖った先の黒鉛のように、頂を彩っていた。

「おかしいね…。海苔のパッケージに、おにぎり用にカットしてありますって書いてあったのに…」
「昴流…、おにぎりは手で握って作るからおにぎりなんじゃ…?」
「それが不思議なんだよね。僕もそうやって作るのかと思ってたよ」

はて、と首を傾げる仕草で昴流はいぶかしんだ。
何とか作っては見たものの、やはり彼にとってもこれは自分の思い描く理想のおにぎりではなかったらしい。

「お米がね、熱くて全然握れなかったんだ。でもゴム手袋とかをして握るわけにはいかないし…」

結果思いついたのが、この米山戦法だったらしい。
まあ、おにぎりと原材料は同じだから、食べるのには問題ないだろうけれど。
よく見ると、昴流の両の手のひらはうっすら赤みを帯びていた。
冷ましてもいない炊き立てのお米を素手で触るなんて、無茶もいいところだ。

「…主人公、だめかな…?」

恥ずかしそうに昴流は少し俯いた。
失敗してしまった、というしょげた表情だった。

「…大丈夫、おいしそうだよ。お米のいいにおいするし…」

お皿じゃなくて、お椀に入れてくれればよかったのに。
そう思ったけれど、言葉は飲み込むことにした。
彼なりに頑張ったのだ。
昴流はおにぎりのつもりで頑張ったのだ。
おにぎりはお椀の中には入れないのだ。

「主人公、お茶だよ」

ことり、とお皿の横に湯のみが置かれる。
こちらは存外、きれいな程よい緑色のお茶が注がれていた。
小さく湯気が立ち上る。
見るだけでほっとするような光景だ。

「お茶淹れるの、上手だね」
「ほんとう?」

昴流は嬉しそうに小さく笑った。
上手くいってよかった、というようにほっとする。
続けて、少し照れたように話し始める。

「実は、お茶の葉もどれくらい入れたらいいかよく分からなくて…」

彼が言うには、お茶の葉が入った筒も、あやまって中身を引っくり返してしまったらしい。
飛び散った際に急須に入った量が、床に落ちなかったお茶の葉の唯一の生き残りだったらしい。
つまり、たまたま丁度いい量になったということだった。
……それでさっき、掃除機の音が響いていたのか。

「ごめんね主人公。僕、下手で…」

何でも器用にこなす昴流だと思っていたけれど、家事の類は守備範囲外らしい。
……。
ぷ、と空気が口を突いて出た。

「…昴流、ぶきようー…。いいこ」

ベッドから手を伸ばして、主人公は昴流の頭を少し撫でた。
昴流のほんのり赤かった目じりが、さらに赤く染まった。

「…それじゃあ、手をつけさせてもらおうかな」

その言葉に、昴流はそろそろと主人公にお箸を差し出した。
さすがに昴流も、この米の山を主人公がおにぎりのように素手で食べる姿は思い描けなかったらしい。

「じゃ…いただきまーす!」











にぎりにぎり




(具に到達するのには時間がかかった)










あとがき

相互記念でした。
ギャグっぽくなってしまい、もうしわけありません…!
お料理ネタということで、こんな感じに…。
……。
と、とりあえず、これからどうぞよろしくおねがいします!




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あきゅろす。
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