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いちごみるくパン(桃瀬様へ)



・神威

・学パロ











「主人公ちゃん、誕生日おめでとう!」

お昼休み。
教室の一角から、わっと歓声があがった。

「あ、ありがとう…!」

はにかみつつ、主人公は照れくさそうにぺこりと頭をさげた。
大袈裟な行事というわけでもないけれど、誕生日を祝われるのはやっぱり嬉しい。

「ひまわりちゃんと二人でね、ワンピースを作ってみたの!」
「あ…」

さくらが隠すように持っていた、可愛いラッピングの紙袋を取り出す。
どうやらお手製らしい。

「て、手作り!?」
「そうだよ、頑張って本やインターネットで調べながら作ったんだよ」

四月一日くんにも頼ってないんだよ。
そうひまわりは少し得意げに笑った。

「嬉しい…!ご飯で汚さないようにちゃんとしまっておくね」

二人がせっせと計画的に針仕事をしてくれている姿が目に浮かぶ。
机の端に引っかかっている鞄を手に取り、丁寧にしまおうとする。
…が、そこで鞄内のスペースがやけに多いことに気が付いた。

「あ……」
「どうしたの?」

慌てて大きな声を飲み込む。
悟られないように、そっとお財布を取り出す。

「今日、売店で買おうと思ってたんだった。ちょ、ちょっと行ってくるね!」
「?うん」

…どうやらお弁当を忘れてしまった。
ここでそのことを皆にいったら、皆はきっと自分たちの昼食を割いてくれるだろう。
でもそれはさすがに申し訳なかった。
今の和やかな雰囲気を自分のミスで乱すのもなんだ。
自分で調達できる可能性があるのなら、まずそっちを試してみよう。
お昼休みはまだ始まったばかり。
主人公はお財布を片手に教室を出た。











「あ…」

やはりというかなんというか、お昼休みの売店は込み合っていた。
女の子はお弁当という子も多いが、男子生徒などは売店に売られているパンやおにぎりの類で済ます人も少なくない。
ましてや、主人公の学校の売店は凝ったパンや手作り感があるお弁当でちょっとばかり有名なのだ。
中には教師までここに買いに来る始末。
いかにも売店通といった生徒から、部活で鍛えている男共まで群がっている。
とてもじゃないが、この中に割り込んでく勇気は、到底主人公にはなかった。
しかし、急がないとお昼を食べそびれてしまう。
いや、それ以前に売切れてしまう。
皆が皆、一つずつ買っていくとは限らない。

「……うぅ」

何とかカウンターまでは辿りつきたいが、売店の前はかなり混雑している。
列も順番もあったもんじゃないのだ。
今のところは自分以外の女生徒は見当たらず、それが余計に主人公を心細くさせた。

「……?」

主人公は何やら視線を感じた。
廊下の真ん中に突っ立っていたのが邪魔だったのだろうか。
急いで退こうとする。

「ごめんなさ……、あ」

こちらを見つめていたのは、どうやら見知ったクラスメイトだったらしい。
気配を消していたのかというくらい背後の近くに立たれており、主人公は非常に驚いた。

「か、神威くんも売店?」

平静を取り戻しつつ尋ねると、少しだけ神威は頷いた。
片手には白いビニール袋。
もう買い物は終えたらしい。
あんまり自分が立ち往生していたものだから、気にかけてくれたのだろうか。

「あ…そっか、私はまだ買ってないから…」

と、再び売店に目をやる。
すると、先ほどまであれ程込み合っていた売店のカウンターが、今では嘘のように人がまばらになっていた。
チャンスだろうか。
そう思って主人公は足を踏み出しかける。
しかし、売店のおばちゃんがいそいそと看板を掲げた始めた。
その内容に愕然とする。

「…うり…きれた…」

がくーっ。
そんな効果音が付きそうなほどに、主人公はうな垂れた。
握り締めていたお財布が虚しい。

「………」

そっ。
左肩に微かな感触。
ふと振り向くと、神威の手のひらが浮くか浮かないかくらいの軽い力で主人公に触れていた。
話しかけたかったらしい。

「あ、平気だよ。自販機か何かで買ってきて午後はなんとか…」

神威はそっと手にしていた白いビニール袋を差し出した。
……くれるらしい。

「で、でもそれじゃ神威くんが…」
「弁当はべつにある」
「あ、そっか。昴流くんは教室で食べてたもんね…」

なら素直に受け取ることにしよう。
さて、これは元々神威が食べるはずだったものである。
はてはていったい彼の趣向とは。

「こ、これ…」

主人公は目を見開いた。
白いビニール袋の中には、ピンク色で丸い物体が一つ入っていた。

「え…?でもこれってすぐ売り切れちゃう…!」

『いちごみるくパン』。
税込み百二十円の、我が校の売店では、近年ついにカレーパンを抑えての人気商品アンケートナンバーワンに君臨した幻のパン…!
苺のつぶつぶがパン生地に練りこまれ、中身はふんわり生クリーム。
見た目も自然なピンク色に彩られた、まさに桃色の天使スウィートハニーマイドリームなのだ。
その愛らしいフォルムと奪取の困難さから、これを買って異性にプレゼントすると必ず結ばれるなんていうジンクスもあるくらいで。

「か、神威くん、でも、これ、でも、でも、……でも」
「……」

神威は無言で制服のポケットに手をつっこむ。
持っていたらしいハンカチで、主人公の口の端を拭った。
よだれが垂れていたらしい。

「ご、ごめんね」

手渡されたはいいものの、おろおろするしかできない主人公。
食べるのがもったいなさすぎる。
これは記念にとっておくべきだろうか。
だめだ、生クリームを使用しているため、今日中に食べなければならないデリケート食品だというのに。

「……誕生日」
「あ…、覚えててくれたんだ?で、でも、これは滅多に買えないし、神威くん食べたかったんでしょう?」
「……」
「……あ」

神威は何も答えず、主人公が握り締めていたビニール袋から本体を取り出した。
無意識だが、主人公は物欲しげに左手の指先を唇に当てた。
どうするの、どうするの、というふうに真剣に覗き込む。
ばりっ、という軽快な音とともに、いちごみるくパンの生身の素肌が露見した。
もはや引っ込めることはかなわない。
このお昼休み中に食べなければならない。
ああ、そんなふうに鷲掴みにしないで!
そんなふうにしたら生クリームがでちゃうかも…!

「んむぅっ!?」

あられもなく神威の手によって捕縛されたいちごみるくパンは、ぐいっと主人公の口元に押し付けられた。
有無を言わさず、いちごの甘そうな香りが鼻腔をくすぐる。

「ふ、むぅぅぅ…!」

気が付いたときにはもう遅い。
すでに主人公の唇はいちごみるくパンのふくよかな感触を知ってしまった。
だめだ、耐え切れない。
主人公は初めて、その薄桃色の肌にじっくりと歯を立てた。
想像通り限りなく柔らかいパン生地は、主人公の突き立てられた歯を拒むことなく受け入れる。
……!
一口目ではまだ生クリームには到達できないらしい。
だめ、神威くんのなのに。
こんなに深くかじっちゃだめなのに。

「あと一口だけだ」
「!?」

あと一口。
あと一口で、果たして生クリームに辿りつけるのだろうか。
このままでは完璧にいちごみるくパンを口にしたとは言えない。
苺の芳醇な香り、味が体現されたパン生地と、なめらかかつ、ふんわりムース感も忘れていない生クリーム。
その二つが揃わなければ。
その二つを同時に噛み締めなければいけないのにぃぃ。
主人公は両手で神威の腕をぎゅうと掴んだ。
もちろん、麗しのいちごみるくパンをしっかり固定するためだ。

「………んっ」

思い切って、顔をいちごみるくパンにめり込ませるくらいの勢いでめいっぱい頬張る。
………やったぁ。
生クリームの冷たくなめらかな感触を唇と舌先で感じた。
それに、それに……!

「ふむぅ…!」

主人公は嬉しさのあまり笑みを溢れさせた。
噛み切る瞬間、歯に硬い大きな塊を前歯の辺りにこつんと感じた。
これはきっと、何かの分量ミスで生まれた巨大苺つぶつぶに違いない。
いや、ミスではなく、こういうふうに元来取り計らってくれているのだろうか。
この塊を是非ともげっとしたい。
主人公は一生懸命口内に納めようと、必死で前歯でかじりついた。
相当大きい塊らしい。
中々大人しく味あわせてくれない。
ふぐぐぐっ。

「……」

神威の目じりがぴくりと動いた。
ぐいっと額のあたりを押され、主人公はいちごみるくパンから遠ざかってしまった。
牽制の手に、主人公ははっとなる。

「……やめろ」

ゆっくり離された愛しきいちごみるくパンを見ると、くっきり主人公のかじった跡がついていた。
ついでに、そのいちごみるくパンを握った神威の指先にも、ちいさく赤い歯型がついていた。

「あ……ご、ごめんなさい!」
「……」

しばらく沈黙が続く。
神威はふっと顎を下げて俯いた。
怒らせてしまったかと、主人公は慌てて顔を覗き込む。

「か、神威く…ん?」

確かに、ちらりと目が合った神威の瞳は、怒ったように細められていた。
それからいつもは真っ白な頬が、少しだけ血色がよかった。
ふむ…、やっぱり怒っている。
胸のあたりにばしっと残りのいちごみるくパンが押し付けられる。
生クリームが溢れて、主人公の制服に少しついてしまった。

「わーっ!き、貴重な生クリームが…!」

すたすたと神威は自身の教室に戻っていった。
それに続いて主人公も追いかけようとする。
が、自分の制服の汚れに、さらに重要な事実を発見してしまう。

「な…っ!生クリームも薄ピンク…!」

なんと生クリームも苺が練りこまれていたのだった。
…ば、売店のおばちゃん、侮れなさすぎます!














いちごみるくパン




あとがき

大変遅くなってしまいました;
だいぶオーバーしてしまいましたが誕生日ネタ(?)ということで…。
何だかギャグっぽくなってしまいすみません><!
桃瀬様、誕生日おめでとうございます。
これからもどうか仲良くしてくださいね^^!


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