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お嬢さん、鍵を忘れずに


・神威

・『普通の考え方』の続編

・神威視点











町は夜であろうと忙しなく輝く。
けれどこの時間、一般の住宅地は少し静まりかえる。
マンションの六階という高さは風がやや冷たい。
神威は柵を踏み越え、明かりの無い窓の外に降り立った。
ガラスの向こう側が薄っすら見通せる。
暗い。
でも、いる。

窓に手をかけると、多少の違和感を覚える。
鍵がかかっていない。
施錠がほどこされていようと、その程度ならどちらにしても自分にとってなんら障害にならないけれど。
自分が思うのも何だが、無用心だ。
外よりは冷えた風をしのげる部屋に足を踏み入れると、一人いつもの位置で寝ている人間がいる。
神威は寝台を覗きこむと、瞼を閉じて横向きに丸まっているその人物の名前を小さく口に出した。
主人公。
当然反応は返ってこない。
期待してもいないので、すみやかにベッドの脇に屈みこむ。
いつもと同じ。
覆っている髪をどけると、神威は主人公の頬から首筋の辺りを指でなぞった。

「…、」

主人公の口から少しだけ息が漏れた。
これから自分がしようとしている行為は多少痛みが伴う。
無意識に体が拒否しようとしているのだろうか。
身じろぎにかまわず襟に指を差し込むと、主人公の体がわずかに震えるのが分かった。
胸の上下がしだいに大きくなり、呼吸が荒くなったのが目視で分かった。
神威は目を細めると、一旦その手を退けた。

「…いつまで寝ているつもりだ」

主人公はまた少し震えると、薄っすら赤くなった顔でおそるおそる目を開けた。
神威の姿を認めた後、やだ、と小さく呟いた。
怯えた瞳でじっとこちらを見ている。
神威が逃がさないように腕を掴むと、嫌がるように振り解こうとした。
なので主人公の肩を無理矢理寝台に押し付けることにした。
拒ませない。

「鍵は」

わざとか。
そう訊ねる。
主人公は何も答えなかった。
どちらにしてもこの高さに位置する主人公の部屋に侵入してきたのだから、自分が普通の人間じゃないことくらいはすでに気付いているだろう。
じっと責めるように見つめると、か細い声で名前を呼んだ。

「…、か、むいくん、なの?」

そう。
昼間に会ったのも、今ここにいるのも。

「…待っていたのか、俺を」
「…ちが、う。神威くんじゃないよ、こんなの」

主人公の瞳が揺れる。
唇がゆっくり動く。
かたどる。
いつも、こんなこと。
ごめんなさい、許して。

それでも首筋は芳しい。
突き立てる瞬間、主人公ははっと目を見開いた。
助けを求めるように伸びた手は、やがて背中にしがみつく。











お嬢さん、鍵を忘れずに



(でないと、吸血鬼がやってきます)


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