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普通の考え方


・神威














首に変な赤い斑点ができるようになった。
















ぐらり、と空が回転して雲の位置がさっきまでとは大幅にずれた。
こほっと少しだけ咳き込んで私はじゃりっとした地面に頬をこすりつけた。汗で砂が張り付いて気持ち悪い。
周りが騒ぎ出す。視界がぼやーってなって、気持ち悪い、と一言だけ吐き出した。
どうやら私は貧血を起こしたらしい。

「主人公ちゃん!」

友達のひまわりちゃんの声が聞こえた後、突然部屋の電気が消されたように目の前がブラックアウトした。












私が次に目を開けた場所は、当たり前だが保健室だった。傍らに看病してくれているらしきひまわりちゃん。
心配そうに私の額の汗を拭ってくれるひまわりちゃんと目があった。

「起きた?大丈夫?」
「…うん。」

おおよそ元気とはいえなかったけれど、首にひんやりあてられた濡れタオルのおかげで気分はもう悪くなかった。
でも起き上がるにはまだしんどい。

「貧血だって。今日はちょっと気温も高かったし、それで気持ち悪くなっちゃったんだろうって。」
「そっか…。」

校庭で体育の授業をしている途中、私はひっくり返ったというわけだ。
そんなに虚弱だったり、貧血体質なわけでもないけれど、今日はたまらず倒れてしまった。

「主人公ちゃん、首のとこ、湿疹かなにか?かゆくない?」
「あ…これ?なんかね、いつのまにかできててね、かゆくはないんだけれど、全然治らなくて…。」

首筋から胸元のあたりまでにかけて、数日前から蚊に刺されたような赤い斑点が浮かび上がっている。
軟膏などを塗ってみたりしているが、治る様子もない。

「虫やアレルギーじゃないの?」
「うーん、かゆくはないんだけどね…。気付かないうちにいつのまにかあったんだ。」

私はなにかアレルギーを持っているわけじゃないし、やっぱり何かに刺されたのだろうか。

「もしかして…主人公ちゃん、血を吸われちゃったんじゃないかな?」
「え?」
「主人公ちゃんが覚えていないだけで、夜な夜な吸血鬼が主人公ちゃんのところに来てたりして。」
「…。」

ひまわりちゃんは意外にオカルトや心霊の話が好きで、結構博識だったりする。
ただ私はその手の話をおもしろいと思いこそすれ、信じるたちではない。
ましてや夜な夜な部屋に見知らぬ吸血鬼なるものを招き入れているなどという考えは、浮かびもしなかった。
もちろんひまわりちゃんも本気で言っているわけではないだろう。私の家はマンションの六階に位置しているし、物理的に無理だ。

「それで主人公ちゃん貧血になっちゃったのかもね。」
「なにー私の血をただ飲みしているというのか。許せないね。」
「ふふっ。あ、そうだ、主人公ちゃんのことね、神威くんが運んでくれたんだよ。」
「…(あの細身の)神威くん?よく私なんて運べたね。重くなかったかな。」





















軽い貧血なんて一回眠ればもう楽になっているもので、私は一時間だけ休んでその後の授業には参加することにした。
けど食欲はまだあまりなくて、お昼休みに早々とお弁当を食べ終わると私は自動販売機に向かった。
一つ冷たいお茶を買って、一つオレンジジュースを買った。









「いつも屋上にいるの?」

屋上に設置されている浄水タンクの陰に彼はいた。普段屋上は風がちょっと強くて寒いんだけれど、今日はからっと晴れているので、熱い。
私の声にゆっくり視線を向けた神威くんは、こっちへ来い、と呟いた。
意外に思いながらも私は神威くんの横に座ることにした。日差しが降り注ぐ中に立たせておくのは良くないと思い気遣ってくれたのだろうか。

「どっち飲む?」

私はさっき買った二つの缶を差し出した。
そのうち、神威くんはオレンジジュースをとった。

「それお礼。体育のときの。」
「ああ。」

ああ、と本人が答えたということは、本当に彼が私を運んでくれたらしい。

神威くんは普段教室でも無口だし、いつも何を考えているかわからない顔をしている(周りの女の子いわく、クールでミステリアス)。
お茶をちびちび飲みながら神威くんの顔を見上げると、やっぱり相変わらず何を考えているのかわからない顔をしていた。
正直、私にはこんな彼が貧血で倒れた女の子を率先して運ぶ性格には思えなかった。が、私はその考えを改めなければならないらしい。

「ありがとう、神威くん。」

神威くんは何も言わなかった。じっと私を見つめていた。彼の目はとっても綺麗だけれど、ずっとそのまま見られているのは居た堪れない。
私は別の話題を振ることにした。

「私、普段は貧血になったりしないんだけどね。今日は調子が悪かったのかな。朝ごはん食べたのに。」

そう言っても神威くんは私のことを見つめたままだ。
私はさらに話を続けた。

「神威くんもいつもあんまり顔色良くないけれど、ちゃんと食べてるの?」

今の私は顔色がまだ元に戻らなくて、血の気の無い真っ白い顔をしているんだけれど、神威くんはいつでも今の私と同じくらいの顔色だ。
どちらかといえば細いほうだと思うし、なんだか今日もお昼を食べた様子も無い。不健康そうな子だなと私は思った。

ふと、神威くんの視線は私の首筋に注がれているのに気がついた。
あの斑点みたいなのを見ているようだ。

「これ?何なんだろうね、いつのまにかできてた。かゆくはないんだけれど…。」
「吸われた痕。」
「…そう、かな。」

やっぱり何かの虫に刺されたのだろうか。
首のあたりだけっていう理由がわからないが。

「貧血もこれも、何なんだろうね。…あ、神威くん、教室行こう。」

そろそろお昼休みも終わるころだったので、私は立ち上がった。
階段に通じる扉に向かって歩き出したけれど、神威くんは動かなかった。
おーいって呼びかけたけれど、何も反応がなかったので、私はもう一度かけよって今度はそばで神威くん行こう、って声をかけた。
そうすると彼はやっと私の目に視線を合わせた。



至近距離で見た神威くんの顔は、かっこいいといえば確かにそうなんだろうけど、私はちょっと背筋がぞくってした。
なんだか、自分でもおかしな表現だと思うけれど、あんまり人間ぽくないような気がした。
そして、私を硬直させる表情の神威くんは低く囁いた。












「俺のせいだ…」



















普通の考え方




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