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君が目覚める五分前


・『君の香りがやってくる』の続編










自覚はなかったが、体に疲労が溜まっていたのかもしれない。
でなければこんなことになるはずがない。

「さっきからずっと不機嫌だね、神威」

不可思議そうに昴流は首を少し傾けた。
できれば何も言いたくない。説明したくない。
ただの失態話になるだけだ。

「…主人公のこと?起こしに行かせたのは僕だよ」

怒らないであげて、と昴流は諭すように言った。
べつに怒っているわけじゃない。

「でも、さっき主人公がなんだか浮かない様子だったから…。何かあったの?」

何もない。
寝ているところを起こされた。
それだけだ。

「神威、どんな起こされ方されたの?そんなに寝覚めが悪くなるようなことだったの?」

主人公がそんな方法をとるようには思えないけれど、と昴流は後に続けた。
昴流の思っているとおり、別段変わったことなんかされていない。

「…じゃあ神威が何かしたんでしょ」

心なしか昴流は怪訝そうな表情になった。
…こっちだって何もしていない。

「嘘だ。何もないのに二人がそんな様子になるわけない」

昴流は若干拗ねたような口調でそう言った。
昴流がそんなふうに物を言うなんて珍しいことだが、自分だけ事情を知らないのが気に入らないのだろうか。
原因、きっかけは昴流にあるのに。

「…起こしてきてって頼んだだけだよ、僕は」

主人公は頼まれたとおり起こしに行った。
そして俺は起こされた。
それだけだ。

「…神威、寝ぼけて主人公に何かしたんじゃないの」

ない。
昴流が想像しているようなことは何もしていない。

「じゃあ何したの?というか、僕が想像していることって何かちゃんとわかってるの?」

ならそれでいい。
昴流の想像していることでいい。
それをした。俺たちは。

「っ、主人公に、そんな、っ」

…。
どうして怒る。

「だって!神威は力任せに、主人公を」
「待て、何を想像している」
「もう神威は主人公に触ったりしたらだめだよ、絶対。僕が禁止する」
「…」
「何か不平がある?」
「……ある」
「言って」
「…ただ、起こされるまで気付かなかったのが気に食わなかっただけだ。何もしていない」

無防備な醜態を晒したのが気に食わなかった。
声をかけられてもまだ安堵しきっていた自分が許せなかった。

「…そう」

昴流はおもしろくなさそうに呟いた。
おそらくまだあまり納得していないんだろう。

「これからは神威、自分で起きてね」
「ああ。…主人公は」
「今は部屋で寝てるんじゃないかな」
「…」
「どこに行くの神威?」
「…起こしに」
「え、いいよ。僕が起こしに行くから」
「…」
「神威?…まさか主人公に何かいたずらしたりしないよね」
「…しない」
「…やっぱり僕が起こしに行く!」
「ただ起こすだけだ」
「触ったらだめってさっき禁止したでしょ」
「…触らなくても…起こせる」











君が目覚める五分前



(結局自分で起きちゃうのです)

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